
こんにちは!コンサルタントのSです。
普段は、製造業界や保険業界の企業様に対して、マニュアルの作成・改善プロジェクトを担当しています。今回はマニュアル品質を左右するポイントの1つである「書式」に着目します。
マニュアルは、製品やサービスの使用方法、業務の運用方法などを明確に伝えるための重要なツールです。そのため、マニュアルの印象や使いやすさによっては、マニュアルの目的である正確な情報伝達に影響してしまいます。
ここでは、マニュアルにおける書式の重要性について、実際に見かけたマニュアル例を交えながら、読みたいと思わせる「最適なマニュアル」にするためのコツを項目に分けて解説します。
1. マニュアルの印象を左右する書式

突然ですが、下記2つのマニュアル例をご覧ください。みなさんは第一印象でどちらのマニュアルが読みやすいと感じますか?

おそらく、「マニュアルA」の方が読みやすいと感じる方が多いのではないでしょうか。
上記2つのマニュアル、実は一言一句同じです。異なるのはフォントや文字サイズ、行間といった書式設定だけです。書式が違うだけで、印象が大きく変わりますね。
「マニュアルB」には、具体的には下記の問題点があります。
・毛筆体のフォントが使われている ・文字サイズが均一 ・文字の行間が狭い ・文字色が見にくい ・同じ段落の情報が多い ・インデント位置がすべて同じ |
・知りたい情報を素早く探せない ・どれが何の目的の情報なのかわかりにくい ・情報の見落としが発生する可能性がある ・情報量が増えた場合、迷子になる可能性がある |
使用するフォントによっては、古めかしい印象を与えたり、幼稚な印象を与えてしまったりするかもしれません。また、文字のサイズや色が適切でないと、読むこと自体がストレスになり、読まれないマニュアルになってしまいます。
書いてある内容は正しいのに、第一印象が悪いために読んでもらえないとなると、とてももったいないですよね。
書式は、マニュアルの第一印象を左右するだけでなく、使い勝手にも大きく影響します。適切な書式を選ぶことで、結果的に読み手への効率的な情報伝達が可能になります。
例えば、フォントの選び方や行間の設定、段落の配置などが整っていると、読みやすく理解しやすいマニュアルになります。逆に書式が適切に使用されていなかったり、乱れていたりすると、読み手に混乱を与え、マニュアル全体の信頼性が損なわれる可能性があります。
では、第一印象がよく、読み手にとって使いやすいマニュアルにするには、どのような観点で書式を設定すればよいのでしょうか。
2. マニュアルにおける適切な書式とは?(読み手の視点)

マニュアルの「書式」というと、マニュアルの見た目を左右するため「センスが問われる」と思われる方も多いのではないでしょうか。確かに、“かっこいい“フォントや、”おしゃれな“配色、”洗練された”デザインなど、多少なりとも美的感覚が必要な面はあるかもしれません。しかし、マニュアルの書式を決めるうえで何より重要なのは、情報を構造的に捉えて整理することです。
では、情報を構造的に捉えるとはどういうことなのでしょうか。先ほどの「マニュアルB」を例に考えてみましょう。

上記は、「マニュアルB」の文章を「情報の種類」の違いに着目して色分けしたものです。具体的には、下記のように色を分けています。
・ピンク色:見出し
・黄色:概要
・緑色:手順
・水色:手順の補足
マニュアルの書式を設定するときは、好みで自由に装飾していくわけではありません。自社のマニュアルに登場する上記のような「パーツ」を洗い出し、それぞれのパーツごとに「既定の見せ方」を与えてあげる必要があります。
では、その見せ方を設定する際のポイントを説明しましょう。
フォント
フォントは、マニュアルの第一印象を大きく左右するポイントの一つです。マニュアルの目的や内容、読み手の知識レベルなどに応じて適切なフォントを選択する必要があります。
以下は、日本語のマニュアルでよく使われるフォントの例とその特徴です。
ゴシック体: |
![]() マニュアルや広告、ポスターなどで広く使われている。大きな見出しや タイトルでは、力強さや個性を表現できるフォントとしても使われる。 |
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メイリオ: |
![]() また、線の太さが均等で、読みやすく、文字間の余白も広くとられているため、 見やすいという特徴もある。 一般的には、ビジネス文書やレポート、 プレゼンテーション資料などに使われることが多い。 |
明朝体: |
![]() 可読性が高く、長い文などに向いている。 新聞、小説などのフォントは明朝体が定番となっている。また、堅苦しさも感じさせるため、 就業規則やセキュリティに関するマニュアルに使われることが多い。 |
フォントを決めるうえで重要なのは、そのマニュアルの目的や読み手、内容に沿っているかどうかです。
例えば、初心者向けの操作マニュアルや、新入社員向けの業務マニュアルに明朝体を使うと、難しく取っ付きにくい印象を与えてしまいます。反対に、専門的な技術系のマニュアルにメイリオを使用すると、稚拙な印象を与えてしまうかもしれません。
また、基本的にフォントはマニュアル全体を通して1種類に統一しましょう。「見出しはゴシックで、手順はメイリオで、注意事項は○○で…」と使い分けすぎると、統一感や一貫性のない印象のマニュアルになってしまいます。
文字サイズ、行間
文字が小さすぎると、読み手が文章を理解するのに苦労することがあります。特に、長い文章が多いマニュアルや、スマホなどの小さな画面で表示することが想定されるマニュアルの場合には、注意が必要です。また、行間が狭いと、マニュアルが全体的に窮屈な印象になります。反対に、行間が広すぎても間延びした印象になるため気を付けましょう。
マニュアルの本文に用いられる一般的な文字サイズは、8ポイントから12ポイント程度です。行間は1.0から1.5倍程度です。ただし、マニュアルの種類や用途によっては、より大きな文字サイズや広い行間が必要な場合もあります。例えば、製品の取り扱いや設定方法を説明するようなマニュアルでは、文字サイズが大きめであることが望ましい場合があります。一方、薬剤や医療機器の説明書などのように、多くの情報を詰め込む必要があるマニュアルでは、文字サイズを小さめにしたり行間を狭くしたりすることでページ数を減らし、コンパクトにまとめることが求められる場合もあります。
文字サイズは、マニュアルに登場する「パーツ」ごとに設定することをお勧めします。目立たせたい見出しや手順は周りより少し大きめの文字サイズにすることで、読み手がパッと見て情報を探しやすくなります。
文字の色
マニュアルでは、基本的に黒字か濃いグレーを使いましょう。見にくい文字色は、マニュアルを読むときに大きなストレスになります。また、語句を強調したいからといって、様々な色を使いすぎるとかえって読み手の理解を妨げてしまうことがあります。
注意事項など目立たせたい部分についても、基本的に文字色は変えず、文字サイズを調整したり太字にしたりするなどして強調するとよいでしょう。特に、白黒印刷をして使うマニュアルの場合は、印刷したときに文字色の違いが出なくなってしまうため注意が必要です。他にも、「注意」や「補足」を示すアイコンを入れたり、注意事項や補足情報を枠で囲んだりと、文字色を変える以外にも目立たせる方法があります。
ここまで、マニュアルの書式について「フォント」「文字サイズ、行間」「色」というポイントで説明してきました。
最初に紹介した「マニュアルA」では、実際にどのように書式設定されていたのでしょうか。

上記は、「マニュアルA」の情報の種類別に設定されている書式を記載したものです。
「マニュアルA」は、このように、情報の種類を構造的に捉えて、パーツごとに書式が設計されていました。だからこそ、読みやすい印象になっているのです。センスや好みだけの問題ではなく、情報の種類の違いをしっかりと見極めて、メリハリの付いた書式設定を検討する必要があることがわかりますね。
なお、上記に示した「フォント」「サイズ」「行間」などは、書式を決める要素の一例です。他にも、インデントや箇条書き設定などの要素も必要に応じて設定しましょう。
3. マニュアルにおける適切な書式とは?(書き手の視点)

ここまで、読み手にとっての使いやすさという視点で、マニュアルの書式について説明してきました。加えて重要なのは、書き手にとっての作成負荷です。
もう一度、「マニュアルB」を見てみましょう。

全体的にメリハリがないマニュアルでしたが、読み手の検索性が上がるように、目立たせたい箇所に太字などの設定がされていますね。しかし、この細かすぎる設定も実は落とし穴です。書き手の作成効率という視点が抜けてしまっています。
例えば、手順内のボタン名は、太字になっています。さらに、ボタン名以外にも手順のキーワードになる用語が太字になっています。
このように文中の単語単位で書式設定を決めてしまうと、編集負荷が大幅に上がります。特に、頻繁に更新されるマニュアルの場合、改訂のたびに書式設定の負荷がかさんでいきます。また、担当者が変わった場合に複雑なルールに従って同じように作ることが難しくなるかもしれません。
マニュアルの書式を設定する際には、改訂時に過度な負荷がかからない範囲のルールや、執筆担当者が変わっても、同じ粒度で執筆ができる基準を検討する必要があります。
上記の例の場合、文中の単語を強調したいときは太字にするのではなく、括弧で囲むなどのルールにしておくのが望ましいといえます。書式の設定は1文単位とし、文中の単語単位で細かく書式を決めるのはなるべく避けましょう。
4. まとめ
今回は、マニュアルの書式に着目して、読み手・書き手双方の視点をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。マニュアルにおいて適切な書式を使うことは、読み手にとっても書き手にとっても大切なことがわかったのではないでしょうか。
まず、読み手の視点では、情報の検索性を高め、必要な情報を迅速に見つける手助けとなります。これにより、視覚的な負担が軽減され、ストレスのない情報取得および内容理解の促進につながり、作業効率の向上が期待できます。
一方、書き手の視点では、マニュアル全体の一貫性を保ち、編集作業を効率化することができます。これにより、誤解や誤情報のリスクを減少させることができるだけでなく、複数の担当者が関わる場合でも、同じルールや基準の認識を持つことでスムーズな連携が可能となり、最終的には品質向上につながります。
読み手と書き手の両方の視点から書式を考慮し、わかりやすく、編集しやすいマニュアルを目指しましょう。
そして、上にも書いたとおり、マニュアルの書式は「センス」の問題ではありません!情報の種類の違いを捉えるスキルをぜひ養ってください。そして、今後マニュアルを作成される際には、こちらの記事をぜひ参考にしてくださいね。また、「最適なマニュアル」の作成には、「書式」以外にも様々なポイントやコツがあります。関連する以下の記事も参考にしてください。
>“良いマニュアル”5つのポイント
>マニュアル作成に必要な3つのアプローチ
>プロが教える業務マニュアル作成・定着のコツ
>他社事例から学ぶマニュアル作成の進め方
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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。このブログがマニュアル作成のヒントになれば、うれしく思います。
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