
こんにちは!コンサルタントのSです。
普段は、製造業界や保険業界の企業様に対して、マニュアルの作成・改善プロジェクトを担当しています。今回は「業務の属人化」について考えてみましょう。「マニュアル作成をきっかけにして会社の文化を変える!」という目標を掲げられ、業務属人化からの脱却に挑まれている企業の事例も紹介します。ぜひご注目ください。
- 目次
1. そもそも業務属人化とは?原因は?

まず、業務の属人化とはどのような状態のことか、何が原因で起こるのか、例とともに見てみましょう。
業務の属人化とは、特定のメンバーが特定の業務を担当し、その業務に関する知識やスキルがそのメンバーに集中している状態を指します。つまり、他のメンバーが同じ業務を遂行する際には、そのメンバーに依存しなければならない状況が生じているということです。
以下に、業務の属人化を引き起こす原因とその結果について、いくつか例を挙げてみます。
●原因①:業務の特殊性
特殊なスキルが必要な業務は、属人化しやすくなります。
例えば、特殊なプログラミング言語を用いるITプロジェクトでは、その言語を知るエンジニアでないとそもそも業務ができず、彼らに依存しないと業務が回らなくなりますよね。また、製造ラインでは、特定の機械操作ができる作業員が限られていると、その作業員の不在時に業務が停滞し、生産性が損なわれる可能性があります。
●原因②:情報共有の機会の不足
メンバー間で業務情報を共有する機会が少ないと、業務の属人化が進みやすくなります。
同じ業務をしているメンバー間で打ち合わせの場がなかったり、業務情報について書き記す共有ドキュメントがなかったりするケースです。このような状況だと、他のメンバーのやり方や注意しているポイントなどの情報が共有されないため、業務プロセスがブラックボックス化してしまいます。また、効率的に進めているメンバーのやり方が共有されないと、組織全体のパフォーマンス向上にも繋がりません。
●原因③:情報共有することへの心理的な抵抗
自身の業務に高いプライドを持ち、情報共有することを躊躇するメンバーがいると、業務の属人化が進みやすくなります。
例えば、成績優秀な営業担当者の中には、自身の営業ノウハウを他者に共有することに強い抵抗を示す人もいます。そうなると、組織内での情報共有が滞り、新たなアイディアや効果的な戦略が広がりにくくなります。「背中を見て学べ」という文化が強い企業に起こりがちかもしれませんね。
このように、業務の属人化は様々な原因で発生し、業務の効率を低下させ、組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。
それでは、業務属人化から脱却するにはどのような策を取ればいいのでしょうか?次の章で見ていきましょう。
2. 業務属人化から脱却するには?

業務の属人化を解消するためには、以下の方法が効果的です。
●マニュアルの作成と活用
業務の手順や知識をまとめたマニュアルを作成し、すべてのメンバーがそれを活用することで、スキルの共有や業務の均一化を図ります。
●コミュニケーション強化
定期的なミーティングや情報共有の場を設けることで、メンバー間のコミュニケーションを促進し、スキルの共有や伝達を行います。
●スキルアップ支援
研修やトレーニングの場を提供することで、どのメンバーも業務を遂行するために必要なスキルを習得できるようにします。
弊社は、この中でも「マニュアルの作成と活用」において様々な企業を支援してきました。
その代表的な例として、私が実際にマニュアル作成を通して業務の属人化からの脱却をお手伝いした企業の取り組みをご紹介しましょう。

3. マニュアルが会社の文化を変える!?自動車メーカー様の事例

ある自動車メーカーの品質保証部からのご相談です。
品質保証部のミッションは「設計部署の業務支援」です。当時、ベテランエンジニアの知識が若手に継承されていないことが設計部署の課題でした。若手の育成が急務となる中、ベテランエンジニアが持つノウハウをマニュアル化して技術継承を図りたいと考えました。しかし、忙しいエンジニアたちにマニュアル作成を依頼することが難しく、外注できる会社を探されていました。
先に挙げた、自動車部品の設計という「業務の特殊性」、そして「情報共有の機会の不足」が要因となって業務属人化に陥っている状態であったと言えます。
そこで、以下のように取り組みを進めたところ、実際に効果を得ることができました。
※横にスクロールしてご覧ください
取り組み内容 |
●ステップ1:現状の把握とあるべき姿の設計 「既存マニュアルの分析」や「社員へのアンケート・インタビュー」により現状課題を分析し、それらを解決するためのマニュアルのあるべき姿を設計●ステップ2:マニュアル作成 お客様と役割分担しながらマニュアルを作成 |
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取り組みの効果 |
●これまでベテラン社員の頭の中にしかなかった情報を明文化でき、若手育成の促進につながった ●マニュアルを作成する過程で業務情報を交換する機会を持ったことで、教える側と教わる側でコミュニケーションを取ることの重要さを認識し、社員の意識改革にもつながった |
以下に、具体的な取り組み内容を説明します。
■ステップ1:現状の把握とあるべき姿の設計
まず、「現状の把握」から取り掛かりました。
ヒューマンサイエンスでは、いきなりやみくもにマニュアルを書くことはしません。お客様のお悩みや既存マニュアルを通して実現したいことを理解したうえで、マニュアルに載せるべき情報や記載粒度を検討し、お客様と合意することを大事にしています。このアプローチを怠ると、マニュアルが制作会社の意図のみで作られ、お客様の問題解決に繋がらなくなるためです。
この自動車メーカー様に対しては、以下の取り組みを通して現状の把握を進めました。
●既存マニュアルの評価・分析
お客様がお使いのマニュアルを提供いただき、何がわかりにくいのか、なぜ活用されないのかを分析しました。
▽マニュアル評価分析レポート

弊社では、「誰のために」「どのような目的で」作られたマニュアルなのかを把握したうえで、以下の観点で分析しています。
・構成・検索性
参考:「知りたいことが見つからない」からの脱却!マニュアルの検索性を高める目次作成のコツ
・情報の整理
・デザイン・レイアウト
参考:わかりやすいマニュアルのデザインとは?
・文章表現
こちらのお客様のマニュアルでは、読み手の理解度を捉えきれていないことが大きな問題でした。
例えば、「~を調査する」という手順だけ書いてあっても、「どのように調査するのか?」や「調査した結果は誰かに伝えるのか?文書にしてどこかに保管するのか?」といった情報がないと、読み手である若手エンジニアの方は困ってしまいます。読み手への配慮が無いと、「人に聞いた方が早い」という結論になり、マニュアルが定着しない原因となります。
もちろん私たちはエンジニアとして自動車製造に関わったことはありませんが、マニュアルのプロの視点から、現状マニュアルの課題を見つけるお手伝いをしています。業務に精通していない客観的な立場だからこそ気づける部分がたくさんあるのです。
●設計部署メンバーへのアンケート・インタビュー
既存マニュアルの評価・分析と並行しながら、設計部署のメンバーの声も収集しました。
本件では、ご依頼元の品質保証部の方が「そもそも設計部署のみんなはマニュアルを必要としているのか?」ということから疑問視していたため、以下のような設問でアンケートを実施しました。
・設計手順をまとめたマニュアルがあれば使いたいか
・どのような場面でマニュアルを利用したいか
・どのような情報がマニュアルに記載されていると良いか
・マニュアル化が難しく、口頭でないと教えられない情報は何か など
▽アンケート結果の例

特に、「どのような情報がマニュアルに記載されていると良いか」や「マニュアル化が難しく、口頭でないと教えられない情報は何か」といった設問では、現場の方の貴重なご意見をたくさんいただくことができました。こうした情報は、お客様に業務についてインタビューする際やマニュアルを書く際に、「何をどこまで詳しく聞くべきか/書くべきか」の重要な判断材料となります。
▽アンケート・インタビューの結果をマニュアルに反映した例

■ステップ2:マニュアル作成
プロによる客観的な視点に基づく既存マニュアルの評価・分析と、設計部署メンバーへのアンケート・インタビュー(現場の声の収集)の両面を通して現状を把握した後、マニュアル作成に取り掛かりました。そうして出来上がった原稿を、「評価分析で浮き彫りになった問題点が改善されているか」「インタビューやアンケートで出た意見が反映されているか」という観点でお客様にご確認いただきました。
マニュアル作成に取り掛かる前に「現状の把握」をして関係者と共有しておくことで、原稿確認時の観点も明確になります。
こうしたプロセスを経て1冊目が完成すると、お客様は「今後のために、自分たちでマニュアルを書けるようになっておきたい!」という要望を強く持たれ、マニュアルの内製を進められるようになりました。
とはいえ、すぐに自走するのは困難です。まず、下記のように弊社と役割分担をして進めることになりました。
・業務整理:お客様
・整理した情報をマニュアル化:ヒューマンサイエンス

「業務整理」では弊社独自の業務整理シートを使い、お客様メインで進めていただきました。
参考:テンプレートがあるだけではダメ!業務マニュアルに欠かせない最初のステップ
この段階で、お客様同士のコミュニケーションがとても活性化したことを覚えています。打ち合わせの中で、お客様同士で「この工程、僕はこういうやり方でやっているよ。」「そうなんですね、僕はこうやっていました。」「それぞれこういうメリットデメリットがあるね。」といった会話が増えていったのです。実は、マニュアルを作る過程でこうした業務情報の交換が促進されることはよくあります。
その後、お客様が作成された業務整理シートをもとに、弊社にてマニュアル作成を進めました。
マニュアル作成に慣れていない企業でも、プロと工程を分担することで、効率的にマニュアルを作ることができます。今回の役割分担については、下記のようなお声をいただきました。
・マニュアルの形に仕上げる要の工程をプロに任せたので、マニュアル品質が担保できた
・マニュアル作成などの業務改善活動はどうしても後回しになりがちだったが、外部パートナーに引っ張ってもらうことで計画的に進められた
現在、こちらのお客様はマニュアルを通して若手の育成を進められているようです。
「マニュアル作成をきっかけにして会社の風土を変えていきたい。『背中を見て学べ』もいいが、教える側・教わる側がお互いにもっとコミュニケーションを取れるようになると、業務属人化の解消がさらに進むだろう」とも仰っており、「社風を変える」という高い目標を掲げておられます。
自動車メーカー様の事例を紹介させていただきましたが、いかがだったでしょうか。
マニュアル作成をきっかけに、社内のコミュニケーションが促進され、業務属人化脱却への一歩を踏み出されたお客様の取り組みでした。
4. まとめ
業務の属人化は、部門内のスキル格差や業務の効率性の低下を引き起こします。まずはマニュアルの作成と活用を始め、チーム内のコミュニケーションを強化し、メンバーのスキルアップの支援を行うことが効果的です。これにより、部門内の業務の均一化と効率化を図り、全体的な部門の成果を向上させることができるでしょう。
弊社のマニュアル作成の方法が、皆様の業務に少しでもお役に立てばうれしく思います。
ヒューマンサイエンスは、業務を見える化し、属人化から脱却するためのマニュアル作成の方法をお伝えするセミナーも開催しております。ぜひヒューマンサイエンスの共催セミナーにご参加ください。
ヒューマンサイエンスのマニュアル作成セミナー
5. マニュアル作成のご相談はヒューマンサイエンスへ
ヒューマンサイエンスは、日本語版のマニュアル作成から英語翻訳まで、ワンストップでご支援いたします。
1985年からの長きにわたり数々のマニュアルを手がけてきた実績があります。以下のようなニーズがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
・既存の日本語マニュアルや英語マニュアルを分かりやすく改善したい
・英語マニュアルの作成を検討していて、日本語マニュアルから段階的に進めたい
・社内で作成された日本語マニュアルを英訳して活用したい
特長①:大企業・グローバル企業を中心とした豊富なマニュアル制作実績
ヒューマンサイエンスは、製造業やIT業界を中心に、多岐にわたる分野でマニュアル制作実績を積み重ねてきました。これまでに「ドコモ・テクノロジ株式会社」「ヤフー株式会社」「ヤマハ株式会社」など、名だたる企業をクライアントとしてきました。
特長②:経験豊富なコンサルタントによる調査・分析からアウトプットまで
業務マニュアル作成に携わるのは、ヒューマンサイエンスが誇る経験豊富なコンサルタントになります。熟練のコンサルタントが、豊富な経験と提供された資料から、より分かりやすく効果的なマニュアルを提案します。また、情報が整理されていない段階からのマニュアル作成も可能です。担当のコンサルタントがヒアリングを行い、最適なマニュアルを作成いたします。
マニュアル評価・分析・改善提案サービス| ヒューマンサイエンス
特長③:マニュアル化だけでなく、定着支援も重視
ヒューマンサイエンスは、マニュアル作成にとどまらず、”定着化”という重要な段階にも注力しております。マニュアル作成後も、定期的な更新やマニュアル作成セミナーを通じて、マニュアルの定着を支援してまいります。多岐にわたる施策により、現場でのマニュアルの有効活用をサポートいたします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このブログがわかりやすいマニュアル作成のヒントになれば、うれしく思います。
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