弊社では、日英翻訳の品質向上に積極的に取り組んでいます。その中でも、日英翻訳者向けの勉強会は特に重要な取り組みです。今回は、この勉強会について、これまでの取り組みや今後の展望についてご紹介いたします。
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1. 概要と開催の背景
当社の勉強会は、現在は契約している外部翻訳者のみを対象にし、2か月ごとにオンラインで開催されます。将来的には、勉強会を一般の方々にも開放する予定ですが、現時点では参加者は社内翻訳者に限定されています。
勉強会を開催する主な理由の一つは、社内のレビュアーチームが長年にわたり蓄積してきた翻訳のノウハウを外部の翻訳者と共有し、品質向上につなぐことです。また、当社の翻訳者が自信を持ってプロジェクトに取り組むことができるようサポートすることも重要な目的の一つとなっています。
2. 勉強会のテーマ
以下は、これまで取り上げてきたいくつかのテーマの一部です。
- 日英翻訳において原文(和文)の注意するところ
- 日英翻訳において品詞とコロケーションのコツ
- 【特定のプロジェクト名】:翻訳においての注意点
- IT・FA関連の日英翻訳においてよくあるエラー: トップ3
- 品詞の効率的な使い方(冗長な表現を避けて、読みやすさを上げるコツ)
通常、ITやFA関連の翻訳においてよく見られる一般的な誤りの傾向を分析し、それらを回避する方法に焦点を当てたテーマを頻繁に取り上げています。また、テクニカルライティングのルールに従った書き方や効率的な品詞の使い方についても頻繁に取り上げられることがあります。
当社が参加者に対して行ったアンケート調査によると、特に多くの支持を受けたテーマは以下の二つでした。
- 品詞の効率的な使い方(冗長な表現を避けて、読みやすさを上げるコツ)
- 日英翻訳において品詞とコロケーションのコツ
「品詞」は、日英翻訳の品質向上において重要な要素です。そのため、弊社の翻訳者は品詞の効率的な使用に大きな関心を抱いています。たとえば、「使用後は、製品を毎回清掃してください。」を「Please clean the product each time after you finish using it.」と訳したとします。この文の「each time after you finish using it」は、余計な代名詞の「you」や「it」が含まれており、文法的にも冗長な表現です。このような品詞の使い方は、テクニカルライティングには適していないため、特にITやFA翻訳ではおすすめできません。たとえ正確であっても、文体や表現の適切さにも注意が必要です。したがって、より簡潔で自然な表現にするために、「Please clean the product after each use.」にすることができます。
勉強会では、このような基本的な品詞の使い方から上級な文法構成や文法の応用まで、幅広い内容を取り扱っています。
勉強会でよく取り扱うテーマについてブログでもご紹介しておりますので是非ご覧ください。
- IT・FA分野の翻訳でよくある間違い① ~「which」・「whose」の使い方~
- IT・FA分野の翻訳でよくある間違い② ~非制限用法「which」と制限用法「that」の使い方~
- IT・FA分野の翻訳でよくある間違い③ ~主語はユーザーか、システムか? 表内の説明文の正しい翻訳方法~
- IT・FA分野の翻訳でよくある間違い④ ~上級文法より読みやすさを追求する~
- IT・FA分野の翻訳でよくある間違い⑤ ~適切ではない前置詞句の使用は避ける~
- IT・FA分野の翻訳でよくある間違い⑥ ~曖昧な係り受けを避ける~
以下には、過去の勉強会で取り上げたいくつかの例を紹介します。(※内容の一部は秘密保持義務に従って変更しています。)
3. 扱ったいくつかの例の紹介
例①:効率的な品詞の使い方(冗長な構成を避け、読みやすくする方法)
原文 | ペン情報を保存するフォルダを設定します。 |
---|---|
訳文(修正前) | Sets the folder in which the pen information is to be saved. |
訳文(修正後) | Sets the folder in which to save the pen information. |
「in which the pen information is to be saved」という表現も間違いではありませんが、より簡潔で読みやすい文章にするために、後置詞句ではなく前置詞句を使用することができます。
例②:効率的な品詞の使い方(冗長な構成を避け、読みやすくする方法)
原文 | これらの金属接合法は普通は強い永久継手に採用される。 |
---|---|
訳文(修正前) | These methods of joining metal are normally adopted for joints that are strong and permanent. |
訳文(修正後) | These methods of joining metal are normally adopted for strong permanent joints. |
「joints that are strong and permanent」(名詞+名詞を修飾する関係節)で文章を構成することも間違いではありませんが、より簡略で読みやすく、「strong permanent joints」にすることをおすすめします。
例③:正しいコロケーションの適用方法
原文 | IXScan中に装置と外部PCの通信が切断されたとき。 |
---|---|
訳文(修正前) | This message is displayed when communication between the system and [the] external PC is cut during IXScan operation. |
訳文(修正後) | This message is displayed when communication between the system and [the] external PC is lost during IXScan operation. |
原文の「切断」に対して、「cut」も間違いではありません。ただし、コロケーション的な観点から考えると、「communication is lost(通信が途絶える)」の方がより自然です。原文を直訳するよりも、コロケーションを優先した例となります。
例④:文脈の表現を省略し、冗長さを避ける方法
原文 | トラックボール、またはロータリーエンコーダの機能の状態がアシスト表示エリアに表示されます。 |
---|---|
訳文(修正前) | The status of function of the trackball or rotary encoder is displayed in the assist display area. |
訳文(修正後) | The function of the trackball or rotary encoder is displayed in the assist display area. |
原文の「機能の状態」をそのまま訳し「the status of function」にしているが、「the function」だけにしても文脈的に「の状態」の意味が自然に含まれるので、わざわざ訳す必要はありません。冗長な表現は避ける方が良いです。
4. 今後の展望
今後は、Tradosや他のCATツールの実際の画面を活用して、翻訳の改善方法を具体的なサンプルと共に紹介し、知識を共有していきます。この取り組みの目的は、翻訳者が実際の作業環境に近い感覚を体験することです。特にITやFA翻訳において、日本語から英語への効果的な翻訳方法に関する知識を提供するだけでなく、CATツールの翻訳メモリや用語ベースなどの機能を効果的に活用する方法についても具体的な情報を提供する予定です。これにより、翻訳の品質向上に役立つ情報を皆さんにお届けできると考えています。
執筆者情報
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アンディ パークマルチリンガルトランスレーショングループ
日英翻訳レビューアー- ・前職では、4年ほどITエンジニアとして従事、その後8年間英会話講師として教育プログラムの策定や講師育成に従事。
- ・IT関連分野、ビジネス分野を中心とした翻訳歴11年。
- ・現在はFA関連製品を中心に、製品マニュアル、ヘルプ、業務マニュアルなどの日英翻訳作業や翻訳品質管理に従事。
- ・機械翻訳エンジンの日英翻訳品質評価・検証を担当。
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