
最新の自動翻訳サービスであるDeepLが注目を集めています。この記事では、DeepLが論文翻訳にどれくらい役立つのかに焦点を当て、その精度や注意点について説明します。また、OpenAI社のChatGPTやマイクロソフト社のCopilotを活用して効率的に論文を読む方法も紹介します。
- 目次
1. 論文翻訳の特徴とは?

1-1. 論文翻訳の特徴
論文翻訳は、一般的な翻訳と比べて難易度が高いとされています。その理由は、論文には専門的な要素や内容が多く含まれているためです。一般的な翻訳では、日常会話や一般的な文章を扱うことが多いため、比較的翻訳スキルさえあれば問題なく行うことができます。しかし、論文翻訳では、特定の学術分野や専門知識に関する深い理解が求められます。
論文は、研究結果や学術的な議論をまとめたものであり、その内容は高度な専門性を要します。例えば、医学や工学、経済学などの分野における論文では、専門的な用語や概念が頻繁に登場します。これらの専門用語や概念を正確に理解し、適切に翻訳するためには、高い専門性が必要です。
また、論文翻訳では、文体や表現方法にも注意が必要です。論文は学術的な文書であり、一般的な文章とは異なる特徴を持っています。例えば、論文では客観的な表現が求められることがあります。また、論文には論理的な展開や引用文献の適切な扱いなど、特有のルールやフォーマットが存在します。これらの要素を適切に翻訳するためには、翻訳スキルだけでなく、学術的な文書の特徴にも精通していることが求められます。
1-2. 一般的な文章の翻訳との違い
論文は、専門的な内容を扱うため、複雑な文章や長いフレーズが使われることが多いです。これは、論文が学術的な文書であり、正確かつ詳細な情報を提供することを目的としているためです。専門的な分野では、特定の概念や理論を説明するために、複雑な言葉や専門用語が必要とされることがあります。
論文では専門用語やまだ確立されていない用語が使用されることもあります。まだ確立されていない用語は、新しい研究や概念を表すために使用されることがありますが、その意味や定義が明確でない場合があります。翻訳者は、これらの用語を適切に理解し、読者にわかりやすく伝えるために、専門的な知識や調査能力を持つ必要があります。
論文の翻訳は、専門的な内容や複雑な表現を扱うため、翻訳者には高度なスキルと知識が求められます。翻訳者は、原文の意図や文脈を正確に理解し、専門用語を適切に翻訳する必要があります。また、新しい用語や概念にも対応できる柔軟性と調査能力も必要です。
1-3. 特定の分野特有の言いまわしや表現の例
医学・薬学分野の論文翻訳では、分野特有の表現を正確に訳すことが重要です。疾患の感受性を表現する際には、「~しやすい」という日本語を英訳する場合、be predisposed to、be prone to、be susceptible toなどを使い分けます。例えば「高齢患者は感染症にかかりやすい」は “Elderly patients are more susceptible to infections” と表現されます。
症状の記述においては、「~を呈する」という医学的な表現をpresent withやexhibitで表すことが一般的です。”The patient presented with acute symptoms”(患者は急性症状を呈した)のように使用されます。また、治療効果を述べる際には、「有効性を示す」をdemonstrate efficacyやshow effectivenessと訳し、”The drug demonstrated significant efficacy”(その薬剤は有意な有効性を示した)といった形で記載されます。
統計関連の表現も医学論文では欠かせません。「統計学的に有意」はstatistically significant (p<0.05)として表記し、「相関する」はbe correlated withやshow correlationを用いて表現します。これらの定型表現を適切に使い分けることで、査読者に評価される質の高い英文に仕上がります。
2. 論文翻訳後の校正方法

論文翻訳後の校正において、まず有効な方法として挙げられるのが「レビュー」です。これは翻訳者自身、もしくは第三者の専門家が翻訳された文章を再確認し、文脈の整合性や専門用語の使い方、意訳の適切さなどをチェックする作業です。レビューでは、翻訳時に見落とされがちなニュアンスのずれや不自然な表現を発見し、元の論文の意図を正確に伝えることが可能となります。特に、専門知識を持つ翻訳者によるレビューは、内容の正確性を保ったまま文章を磨く上で非常に効果的です。
次に、「ネイティブチェック」は、翻訳文が自然で読みやすい英語になっているかどうかを英語の母語話者が確認する工程です。主に文法の誤りや語彙の不自然さ、句読法の適切さなどをチェックします。この工程は、論文が国際的な学術誌に掲載されることを想定した場合には特に重要で、読み手にストレスを与えない滑らかな表現へと整えることができます。ただし、ネイティブ話者が必ずしも専門分野に通じているとは限らないため、内容の正確性には注意が必要です。場合によっては、専門知識を持つ校正者によるダブルチェックが望まれます。
最後に、近年注目を集めているのが「LLM(大規模言語モデル)」、つまり生成AIを活用した校正です。ChatGPTなどのツールを使うことで、短時間で多くの文章を自然な英語に整えたり、用語の統一を図ったりすることができます。これらのモデルは、広範な文脈理解力と表現力を備えており、論文のスタイルに合わせた修正提案も可能です。また、コストや時間の面でも効率的であるため、初稿段階での品質向上に大きく貢献します。ただし、事実確認や細かな専門用語の正確性は人間による最終チェックが不可欠です。AIの出力を鵜呑みにせず、補助的なツールとして活用することが望まれます。
【関連リンク】
翻訳校正とは?高品質な翻訳を実現する方法を徹底解説
3. DeepLで論文翻訳はできる?

近年、翻訳ツールの翻訳の精度は飛躍的に向上しています。その中でも、DeepLという翻訳ツールは特に注目されています。DeepLは、ドイツに本社を置くDeepL社が2017年に開発した機械翻訳サービスです。オンラインで無料でも利用できますが、制限があるため、完全な機能を使いたい場合は有料プランを選ぶ必要があります。DeepLと、DeepLの無料版と有料版の違いについて詳しくは以下の各記事をご覧ください。
DeepLとは?ChatGPTとの比較も検証
DeepLの無料版と有料版(DeepL Pro)の違いとは? ~料金、セキュリティ、文字数~
科学技術論文は、専門的な知識や専門用語が多く含まれているため、翻訳の難易度が高いとされています。しかし、DeepLはそのような論文に対しても強い翻訳能力を持っており、高い評価を得ています。学生や研究者の間で非常に人気のツールとなっています。
4. DeepLで論文翻訳を行ったときの精度

DeepLは、自然で流暢な文章を翻訳する能力においては非常に優れています。一般的な文章や専門用語の少ない文書に対しては、高い精度で翻訳を行うことができます。しかし、専門用語の多い論文などにおいては、なかなか正確な翻訳が難しいという課題があります。
特に医療翻訳においては、専門用語の多さや複雑さが課題となります。しかし、ヒューマンサイエンスによる評価では、DeepLがGoogle、Amazon、Microsoftと比較して英日、日英の両方で最も優れた翻訳精度を示したとされています。ただし、DeepLも他の機械翻訳と同様に、誤訳や訳抜けが存在することに留意する必要があります。そのため、機械翻訳を実行した後には、人による確認や修正作業(ポストエディット作業)が必要です。医療翻訳でのDeepLの翻訳精度について詳しくは以下の各記事をご覧ください。
医療翻訳でのDeepLの翻訳精度は? Google/Microsoft/Amazonとの比較結果
医療翻訳の精度は向上したか-DeepLとGoogle翻訳、2020年と2023年を比較
DeepLは現状では論文翻訳において補助的な役割を果たすことができます。時間短縮につながる可能性もありますが、専門用語の多い文書においては確認作業が必要となることを念頭に置く必要があります。
5.DeepLで論文翻訳を行う手順

1. ウェブブラウザでDeepLのファイル翻訳ページ(https://www.deepl.com/translator/files)を開きます。

2. 右側の言語選択ボタンをクリックして、翻訳後の言語を選択します。

3. 翻訳対象のファイルをドラッグ&ドロップします。

4. DeepLがファイルを翻訳します。その後、無料版のDeepLを使用している場合は、翻訳済みのファイルをダウンロードできます。有料版の場合はブラウザ上に編集画面が表示されます(以下の画像)。訳文を確認、修正後に右下のダウンロードボタンをクリックすると、翻訳済みのファイルをダウンロードできます。

6.英語論文を効率的に読む方法

ChatGPTでは、ファイルのアップロードやURLへのアクセスが可能です。また、マイクロソフトEdgeブラウザのCopilotでもChatGPTと同等の生成AIを利用してウェブページを要約できます。これらの機能を活用することで、短時間で英語論文を読み、研究に必要な情報を効率的に収集することができます。各サービスを使って英語論文を要約して日本語で出力する手順について説明します。
6-1. ChatGPTにファイルをアップロード
1. ウェブブラウザでChatGPT(https://chatgpt.com/)にアクセスします。
2. ファイルをドラッグ&ドロップしてアップロードします。

3. 「日本語に要約して」と入力してEnterキーを押します。ChatGPTがファイルの内容を読み、要約を出力します。

6-2. ChatGPTでURLにアクセス
1. ウェブブラウザでChatGPT(https://chatgpt.com/)にアクセスします。
2. 「<URL> を日本語に要約して」と入力してEnterキーを押します。ChatGPTが該当のURLにアクセスし、要約を出力します。

6-3. マイクロソフトEdgeブラウザでウェブページにアクセス
1. Edgeブラウザを使って、翻訳したい論文のURLにアクセスします。

2. ツールバーの「Copilotに質問する」をクリックします。画面の右側にチャット画面が表示されます。

3. チャット画面上部に「職場」ボタンと「Web」ボタンが表示されている場合は「Web」を選択してから、下部のテキスト欄に「日本語に要約して」と入力してEnterキーを押します。

4. Copilotがページの内容を要約して出力します。

7. まとめ
論文翻訳は専門的な知識と用語が必要で、一般的な文章の翻訳に比べて難易度が高いです。DeepLは特に科学技術論文の翻訳において高い評価を受けており、自然で流暢な文章を生成する能力に優れているものの、専門用語の多い文書では誤訳や訳抜けのリスクも指摘されています。そのため、翻訳後の人による確認や修正作業が必要です。しかしながら、効率的に情報を集める上で、研究者や学生にとってDeepL、ChatGPT、Copilot等のツールは非常に有用です。
ヒューマンサイエンスではDeepLとChatGPTを利用できる自動翻訳ソフトMTrans for OfficeおよびMTrans for Tradosを提供しています。ChatGPTは翻訳エンジンとして活用できるだけではなく、プロンプト次第で文章の書き起こしや書き換え、文章校正をすることができます。MTrans for OfficeおよびMTrans for Tradosは、14日間の無料トライアルも受け付けています。お気軽にお問い合わせください。
MTrans for Officeの特長
① 翻訳できるファイル数、用語集に制限はなく定額制
② Office製品からワンクリックで翻訳できる!
③ API接続でセキュリティ面も安心
・さらに強化したいお客様にはSSO、IP制限などもご提供
④ 日本企業による日本語でのサポート
・セキュリティチェックシートへの対応も可能
・銀行振込でのお支払いが利用可能
Officeかんたん翻訳ソフトMTrans for Officeとは
MTrans for Tradosの特長
- ① DeepLやGoogleなどの複数の機械翻訳エンジンによる同時翻訳
- ② 機械翻訳の訳文に用語を自動適用。機械翻訳エンジンを問わず用語集を一元管理
- ③ 文字列置換、正規表現置換、ChatGPTを使って機械翻訳の訳文のスタイルや表記、表現を自動修正
- ④ 翻訳メモリのあいまい一致の自動修正
- ⑤ 原文の書式、タグを維持したまま機械翻訳