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1. AI翻訳ツールとは?
AI翻訳ツールは、人工知能(AI)を利用して自動的に言語を翻訳するツールです。機械学習、自然言語処理、ニューラルネットワーク、ディープラーニング(深層学習)などの技術を使用して、ある言語から別の言語に翻訳することができます。これにより、異なる言語間でのコミュニケーションや情報の共有が容易になります。
AI翻訳は、2016年にGoogle社がGoogle Neural Machine Translation (GNMT) を発表し、ユーザーへの提供を開始したことで広く知られるようになりました。GNMTはディープラーニングを利用することで、従来のGoogle翻訳サービスよりも大幅に精度が向上しました。
その後、ディープラーニングは他社でも使われるようになり、DeepLなど、より流暢な自動翻訳サービスも登場しました。Google社は2020年にニューラルネットワークを刷新し、Transformerと呼ばれる技術を導入しました。その結果、速度と精度がさらに向上しています。
このTransformer技術は翻訳だけでなく、近年注目されているOpenAI社のChatGPT、Google社のGemini、Anthropic社のClaudeなどの生成AIでも使用されています。
AI翻訳ツールの基本機能としては、テキスト翻訳のほかに、ワード文書などのファイル翻訳、用語集、翻訳メモリなどが挙げられます。これらの機能を活用することで、翻訳作業が効率化し、翻訳精度も向上します。
2. 生成AI翻訳との違い
生成AI翻訳についてとAI翻訳との違いについて解説していきます。
●生成AIとは
生成AIとは、大量のデータを学習した深層学習モデルが、文章・画像・音声などの新しいコンテンツを自動生成する技術です。従来の検索や定型出力と異なり、文脈を推測して創造的な表現をゼロから生み出せる点が特徴です。代表例のChatGPTは、人間と対話しながら質問への回答、翻訳・要約等、多彩なアウトプットを提供します。企業では広告キャッチコピーの草案、教育現場では個別指導、研究分野では仮説生成などサポートできる場面が広がっています。一方、誤情報や著作権侵害、バイアスといった課題もあるため、利用には検証とガイドライン整備が欠かせません。
●AI翻訳との違い
従来のAI翻訳(ニューラル機械翻訳)は対訳コーパスを参照し、語句対応の確率を計算して最適と思われる単語を選択するのが一般的です。一方、生成AI翻訳は学習済みデータが文字・文脈を推測しながら訳文を一から生成します。代表例であるChatGPTは、敬語・要約・解説付きなど多様なスタイルを同時に指示でき、専門用語や不明点への質問にも対話的に応じることができます。また、ニュアンスを推測し、読者に合わせた表現を提案できる点も強みです。しかし、学習データに左右されたり、事実と異なる情報を出力してしまうハルシネーションを起こすことがあるため注意が必要です。
生成AIについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
「生成AIのリスクとは?活用に当たって必要な対策を解説!」
3. AI翻訳の仕組み・方式3種とその違い
AI翻訳の仕組み・方式3種とその違いについて解説していきます。
●RBMT(ルールベース機械翻訳)
RBMT(ルールベース機械翻訳)は、人間の言語知識を手作業で記述した辞書や文法規則を用いて翻訳を行うモデルで、AI翻訳の草創期から使われてきました。入力した文章を分解し、対応する言葉や構造をターゲット言語の規則に従って再構成するため、専門用語や言語構造が安定している分野向けです。一方で、口語や新語など規則にない表現には弱く、辞書追加や規則更新に多大なコストがかかる点が課題です。
●SMT(統計的機械翻訳)
SMT(統計的機械翻訳)は、大量の対訳コーパスを統計的に解析し、原文と訳文の対応確率を学習して翻訳を行うモデルです。まず文章を単語や句に分割し、各ペアが同時に現れる頻度から「翻訳テーブル」を作成します。さらに語順を並び替える「言語モデル」を組み合わせ、最も確率が高い訳文を探索します。文法規則を人手で設計する従来のルールベース方式に比べ、未知表現への応用力が高い一方、コーパスにない表現や長距離の文脈把握が苦手という弱点があります。
●NMT(ニューラル機械翻訳)
NMT(ニューラル機械翻訳)は、文章を翻訳するAI技術です。従来主流だった統計的手法と違い、膨大な対訳データを学習した深層ニューラルネットが文脈を考慮しながら一文を丸ごと処理します。その結果、語順や言い回しを自然に保った滑らかな訳文を生成できるのが強みです。
機械翻訳について詳しくは以下の記事をご覧ください。
「機械翻訳の仕組み~直訳タイプと意訳タイプ、ニューラル翻訳とは?~」
4. AI翻訳のメリット・デメリット
AI翻訳ツールのメリット・デメリットを解説します。
<AI翻訳のメリット>
●翻訳の自動化によるコスト削減・時間の短縮
翻訳の自動化を利用すると、翻訳にかかる費用や時間を大幅に削減することができます。人手での翻訳作業に比べ、翻訳ソフトウェアやAIを活用することで、文書を効率的に翻訳することが可能になります。企業や組織は短時間で多言語の翻訳を行うことができ、さらにコストを抑えることができます。
●翻訳精度の向上
AI翻訳ツールの別のメリットは、翻訳精度の向上です。従来の自動翻訳と比較して誤訳が大きく減少しました。また、AI翻訳ツールは大量のデータを元に学習するため、専門用語や特定の分野における翻訳にも高い精度を持つことができます。そのため、専門的な文書や技術用語の翻訳にも適しています。
●複数言語対応
AI翻訳ツールは、複数言語に対応している点もメリットです。これにより、企業は海外の支社や顧客とのコミュニケーションをスムーズに行うことができます。異なる言語圏との取引を円滑に進めることができるため、グローバル展開を図る企業にとっては非常に便利なツールとなっています。AI翻訳ツールを活用することで、効率的かつ正確な翻訳を行えるため、ビジネスの拡大に大きく寄与することが期待されます。
<AI翻訳のデメリット>
●正確性に欠けることがある
AI翻訳には正確性が不足する場面があります。複雑な構文や専門用語を含む文章では精度が下がりやすく、文脈を読み違えたり多義語で文脈にそぐわない意味を選び、誤訳が起こります。長い文章の場合、一部のフレーズが訳文から抜け落ちることもあります。
また、ユーモアや皮肉、文化的に直訳と異なるニュアンスを持つ語句の翻訳も、不自然な訳になることが多いです。
●人による確認作業が必要
AI翻訳だけに頼ると、誤訳に気づかないまま文章を公開することがあるため人による確認作業が必要です。特に重要な文章の場合は専門の翻訳者によるチェックが必要不可欠です。
●セキュリティリスクの不安
AI翻訳を使う際はデータの安全性にも注意が必要です。特に法務・医療など機密文書を送信すると、サービスによっては内容が学習用に保存され、共有モデルを通じて第三者の翻訳結果にでる恐れがあります。これらの理由から利用規約や設定を確認し、暗号化や機密保持機能が整ったツールを選ぶなど慎重に対処しましょう。
AI翻訳のデメリットについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
「AI翻訳(機械翻訳)のデメリットとは?デメリットを解消して効率的に活用する方法を解説!」
5. AI翻訳ツール5選
AIが搭載されている自動翻訳ツールを5点紹介します。
Google翻訳
Google翻訳はパソコンやスマートフォンなどで広く利用されている無料のAI翻訳サービスです。100以上の言語に対応しています。ファイルの翻訳も可能です。ただし、入力したデータがサービス改善のために二次利用されるため、ビジネスで利用することは推奨されません。
Google翻訳については、こちら。
DeepL
DeepLは特に流暢性が高いことで人気のある自動翻訳サービスです。ファイル翻訳機能、用語集機能を備えているほか、日本語訳の常体・敬体の指定も可能です。他社のサービスと比較すると対応言語数が30と少ないですが、代表的な言語には対応しています。最近ではDeepL Writeという英語とドイツ語の校正支援サービスが始まりました。DeepLの無料プランでは入力したデータがサービス改善のために二次利用されますが、有料プランでは機密が保持されるため業務でも安心して利用できます。DeepLの機密保持ポリシーについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
DeepLについては、こちら。
「DeepL翻訳で機密は保持される?セキュリティは?」
ChatGPT
OpenAI社のAIチャットサービスであるChatGPTはAI翻訳ツールとして利用することもできます。チャット欄に「日本語に翻訳して」と書いてから翻訳対象の文章を入力すれば翻訳されます。用語集や常体・敬体の指定機能はありませんが、チャット欄の指示内容によって訳文を変化させることができます。ChatGPTを使用した翻訳方法について詳しくは以下の記事をご覧ください。
「ChatGPTを使って翻訳をする方法は?使い方や活用方法をご紹介」
ChatGPT は有料かどうかにかかわらず、入力データの二次利用を設定から変更できます。ChatGPTの機密保持ポリシーについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
「ChatGPT、Copilot、Gemini、Claudeで機密は保持される?」
Microsoft 365
Word、Excel、PowerPoint、Outlookの各オフィスアプリにはAI翻訳機能が搭載されています。テキスト翻訳とファイル翻訳(Wordのみ)に対応しています。用語集や常体・敬体の指定はできません。いずれのアプリでも自動翻訳を利用する際の入出力データは二次利用されないため業務で安全に利用できます。各アプリでの翻訳方法について詳しくは以下のブログ記事をご覧ください。
「ChatGPTとOffice製品を連携して手軽に翻訳!方法やメリットをご紹介」
MTrans for Office
弊社ヒューマンサイエンスが開発した「MTrans for Office」(エムトランス・フォー・オフィス)はWord、Excel、PowerPoint、OutlookにAI翻訳機能を追加するアドインです。このアドインをインストールすると、ドキュメントやメールの文章を各アプリから直接翻訳できるようになります。翻訳エンジンはOpenAI、DeepL、Google、Microsoftの4種類から選択できます。いずれのエンジンもAPI経由で接続するため、入出力データは二次利用されません。用語集や常体・敬体を指定でき、OpenAIを利用して翻訳のほかにも英文メールの書き起こしや文章校正も可能です。MTrans for Officeについて詳しくは以下の製品ページをご覧ください。
6. AI翻訳ツールの選び方
AI翻訳ツールの選び方を解説します。
Google翻訳 | DeepL(従来版言語モデル) | DeepL(次世代言語モデル) | ChatGPT | Microsoft365 | MTrans for Office | |
---|---|---|---|---|---|---|
翻訳精度 | 優 | 良 | 優 | 主要言語は優 | 良 | 各エンジンに依存 |
対応言語 | 100以上の言語 | 35言語 | 35言語 | 50以上の言語 | 100以上の言語 | 36言語 |
コストパフォーマンス | 優 | 優 | 良 | 優 | 良 | 優 |
機能性・利便性 | 用語集の設定不可 | 流暢だが訳抜けが多い | ファイル翻訳不可 | ファイル翻訳不可 | Wordで一括翻訳できる | ファイル翻訳可 (Office、PDF、画像) |
セキュリティ対策 | 二次利用あり (無料の場合) |
二次利用あり (無料の場合) |
二次利用なし | 二次利用なし (設定による) |
二次利用なし | 二次利用なし |
●翻訳精度
サービスによってAI翻訳の精度は異なります。また、正確性のほかに流暢かどうかという点も異なります。たとえば、DeepLは他社のサービスに比較して流暢な訳文を出力する傾向があります。重視するのが正確性なのか流暢さなのかによって選択するサービスが変わります。また、用語集や常体・敬体指定機能を利用できるかどうかによっても翻訳精度が変わります。業務上、製品名や専門用語などを頻繁に翻訳することが多い場合は、訳文の精度を向上させることができる用語集機能が備わっているサービスを選択することをお勧めします。
●対応言語
AI翻訳サービスのほとんどは多数の言語に対応しており、主要な言語間で翻訳することができます。業務上、マイナーな言語を使用する必要がある場合は、その言語に対応したAI翻訳サービスを使用する必要があります。
●コストパフォーマンス
AI翻訳サービスを利用すると、人手による翻訳と比較して大幅にコストを削減することができます。ただし、AI翻訳には誤訳や訳抜けが含まれることがあるため、人間による修正作業は必要です。この修正作業をいかに減らせるかによって翻訳作業全体のコストが変わります。そのため高い翻訳精度を持つサービスを選択することが重要です。AI翻訳サービス自体のコストについてはユーザー数に応じた月額または年額固定としているサービスが多く、ユーザー1名あたりの価格は月額数千円程度です。
●機能性・利便性
機能面では用語集の有無が重要です。特に業務上、専門用語を翻訳することが多い場合は、用語集機能を利用することで翻訳精度を大きく向上させることができ、人手による修正作業が軽減されます。その結果、翻訳作業全体のコストと期間を削減できます。利便性については、翻訳を必要とする場面によって変わってきます。Word文書を翻訳することが多い場合はWordファイルをそのまま翻訳できるAI翻訳サービスが便利です。多機能なだけではなく、見やすい、使いやすいUIかどうかも重要なポイントです。
●セキュリティ対策の徹底度合い
AI翻訳サービスは、ユーザーのプライバシーや機密情報を保護するために、セキュリティ対策が徹底されています。通信時には暗号化技術が使用され、データの保管やアクセス制御も厳格に管理されています。AI翻訳サービスでは、高いセキュリティ基準を遵守し、安全性を確保するための様々な手段が講じられています。ただし、AI翻訳サービスの中にはユーザーのデータをサービス改善のために二次利用するものがあります。無料のGoogle翻訳やDeepLの無料プランがそれに該当します。情報漏えいに繋がるため、必ず二次利用のないサービスまたはプランを利用することが重要です。
●ポストエディットサービスの有無
AI翻訳サービスの後にポストエディットサービスを提供する企業も増えています。ポストエディットサービスは、AIシステムによる翻訳後に人間が文の品質を改善するサービスで、AI翻訳だけではクオリティが十分でない場合に有用です。弊社ヒューマンサイエンスではポストエディットサービスを提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
7. まとめ
AI翻訳ツールは、人工知能を利用して自動的に言語を翻訳するツールです。ディープラーニングなどの技術を使用し、異なる言語間の翻訳を可能にします。主なメリットとして、翻訳の自動化によるコスト削減・時間短縮、翻訳精度の向上、複数言語対応が挙げられます。代表的なAI翻訳ツールには、Google翻訳、DeepL、ChatGPT、Microsoft 365、MTrans for Officeなどがあります。選び方のポイントは、翻訳精度、対応言語、コストパフォーマンス、機能性・利便性、セキュリティ対策、ポストエディットサービスの有無などです。ビジネス活用には、機密保持が徹底されたサービスを選ぶ必要があります。
ヒューマンサイエンスではOpenAI、Google、Microsoftの翻訳エンジンを利用でき、Word・Excel・PowerPoint・OutlookなどのOfficeアプリで簡単に文書やメールを翻訳できるアドインソフト「MTrans for Office」(エムトランス・フォー・オフィス)を提供しております。
MTrans for Officeは14日間の無料トライアルを提供しています。ぜひ、お試しください。
MTrans for Officeの特長
①翻訳できるファイル数、用語集に制限はなく定額制
②Office製品からワンクリックで翻訳できる!
③ API接続でセキュリティ面も安心
・さらに強化したいお客様にはSSO、IP制限などもご提供
④ 日本企業による日本語でのサポート
・セキュリティチェックシートへの対応も可能
・銀行振込でのお支払いが利用可能