1. 機械翻訳の最新動向
機械翻訳とは、人間に代わって機械が、ある言語から別の言語に翻訳することです。「自動翻訳」や「AI翻訳」のほか、「MT」 (Machine Translation)と呼ばれることもあります。有名なサービスとしてDeepLやGoogle翻訳があります。
機械翻訳の市場は2020年に1億5,380万ドル、2021年から2026年の間に年平均で7.1%成長し、2026年には2億3,067万米ドルに達すると予想されています(出典:Mordor Intelligence社「機械翻訳市場-成長、傾向、COVID-19の影響、および予測(2022年-2027年)」)。日本でも近年DeepLが注目され、企業への機械翻訳の導入が増えています。
2023年の機械翻訳の最新動向は、より精度の高い翻訳が求められる中、深層学習によるニューラルネットワークの改良が進んでいます。ChatGPTのような大規模言語モデルも注目されており、翻訳だけでなく、訳文のブラッシュアップや要約といった活用方法が考えられます。しかし、人工知能による翻訳の精度はまだ完璧ではなく、人間の校閲や編集作業が重要視される傾向も見られます。
2. 機械翻訳の代表「DeepL」と「Google翻訳」とは
DeepLは、ドイツのDeepL社が2017年にリリースした機械翻訳サービスです。当初の対応言語は欧州言語のみでしたが、2020年3月に新しく日本語に対応しました。DeepL社は以前より対訳検索エンジンのLingueeを提供しており、そこで収集した対訳データとディープラーニングを組み合わせて、高精度の機械翻訳サービスを実現しています。
Google翻訳は、Google社が2006年にリリースした機械翻訳サービスです。当初の翻訳精度はあまり高くありませんでしたが、2016年11月にディープラーニングを用いたGoogle Neural Machine Translation (GNMT、Googleニューラル機械翻訳)と呼ばれるシステムに刷新され、特に中国語と日本語の精度が大きく向上しました。機械翻訳は20年以上前から利用されてきましたが、Googleニューラル機械翻訳が登場したことで、機械翻訳の活用がいっそう加速しました。
機械翻訳の技術は、言語の壁を超えるためにますます重要になっています。DeepLとGoogle翻訳は、世界中で使用されている有名な機械翻訳サービスです。
まず、DeepLについて説明します。DeepLは、ニューラルネットワークを使用して翻訳を行う、最も高度な機械翻訳エンジンの1つです。DeepLは、翻訳の品質が非常に高く、特に英語から他の言語への翻訳においては、人間の翻訳者にも匹敵すると評価されています。DeepLの最大の特徴は、その流暢さです。あたかも人間の翻訳者が翻訳したような自然な表現で翻訳されます。ただし、その流暢さによって誤訳や訳抜けを見つけづらいという問題もあります。
次に、Google翻訳について説明します。Google翻訳も、ニューラルネットワークを使用しています。特徴は130を超える対応言語数です。DeepLが対応していない多数の言語に対応しています。Google翻訳は、非常に使いやすく、ユーザーインターフェースがシンプルで直感的です。また、スマートフォン向けのアプリでは音声翻訳や画像翻訳など、さまざまな翻訳機能が提供されています。
3. 翻訳精度比較
当社ではIT、医療、機械、契約書、特許の各分野を対象に、DeepL、Google、Microsoft、Amazonの機械翻訳サービスを評価し、BLEUスコアを算出しました。BLEUスコアとは、機械翻訳による訳文と、人が一から訳した訳文(参照訳)とを機械的に比較し、類似度を数値として算出したものです。範囲は 0~1 で 1 に近いほど参照訳に近いことになります。意味が同じでも単語や表現が異なるとスコアは下がりますが、人手評価と相関し、値が大きいほど機械翻訳の精度が高いと考えられます。目安としては、スコアが0.3以上であれば、人が一から翻訳するよりも、機械翻訳の訳文を修正したほうが早いと考えられます(ただし、品質要件に依存します)。
評価結果は以下のとおりです。
IT日英、医療英日・日英、契約書英日・日英、特許英日でDeepLが優れています。評判が良いDeepLですが、分野や言語方向によってはGoogleやMicrosoftなどの他の機械翻訳サービスが優れていることがわかります。分野や言語方向によって機械翻訳サービスを使い分けることが推奨されます。また、同じ分野の中でも文書の種類はさまざまで、求められる翻訳品質も異なります。確実な評価には、実際の業務の文書を翻訳して評価することをお勧めします。
メールの翻訳精度については「DeepL の翻訳精度は? ビジネスメールでの Google、Microsoft との比較結果」(https://www.science.co.jp/nmt/blog/20529/)をご覧ください。
4. 機械翻訳をビジネス利用する際の注意点
ビジネスに機械翻訳を導入するにあたって、セキュリティ面を考慮することが重要です。インターネットでは多数の自動翻訳サービスが無料で提供されていますが、ほとんどの無料サービスで機密保持が保証されていません。無料サービスを利用すると、入力した文章や文書を二次利用される可能性があり、DeepLやGoogle翻訳も例外ではありません。無料の機械翻訳サービスを使って機密情報を翻訳すると機密情報が流出する可能性があり、多くの企業で禁止されています。DeepLのセキュリティについて詳しくは「DeepL翻訳で機密は保持される?セキュリティは?」(https://www.science.co.jp/nmt/blog/21127/)をご覧ください。
機械翻訳を利用する際にビジネス用語が正しく翻訳されないことがあります。特に専門性が高い分野や時代の最先端を行く分野では用語の誤訳がよく見られます。機械翻訳サービスには用語集機能が搭載されており、特定の用語に対応する訳語を指定できます。用語の誤訳を回避するには用語集機能を利用することをお勧めします。DeepLの用語集について詳しくは「DeepLの用語集が日本語に対応」(https://www.science.co.jp/nmt/blog/30746/)をご覧ください。
機械翻訳は、ビジネス分野において重要なツールの一つとして認知されています。ただし、注意すべき点もあります。まず、翻訳品質が完璧であるわけではないため、誤訳による誤解を招く可能性があります。特に、ビジネス文書などで正確な翻訳が必要な場合は、専門の翻訳者による校正が必要です。また、機械翻訳による翻訳は、文化的・地域的背景を考慮していない場合があります。
つまり、その国や地域の言葉や文化に精通している人間ならではの翻訳のニュアンスが抜け落ちる場合があるため、ビジネスでの利用にあたっては注意が必要です。さらに、機械翻訳は機密漏えいのおそれがあります。無料のオンライン翻訳サービスを利用する場合は、利用規約をしっかり確認し、機密漏えいをしないように気をつけましょう。ビジネスで機械翻訳を利用する際には、翻訳品質を確認するための校正や、文化的・地域的背景についての理解、機密漏えいを防ぐための注意が必要です。
5. まとめ
DeepLの登場により機械翻訳サービスが注目され、法人での利用が加速しています。複数の企業から機械翻訳サービスが提供されており、翻訳対象の分野や文書によって翻訳精度は異なります。機密保持の観点から無料の機械翻訳サービスを法人で利用することは勧められません。
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