
こんにちは!エンジニアのOです。SaaSサービスの操作マニュアルをはじめとして、様々な分野のWebマニュアル開発に取り組んでいます。今回は、Markdownを使ったマニュアル制作のメリットと事例についてお伝えしていきたいと思います。
- 目次
1. ドキュメント作成の変遷
近年、Markdown記法を使って社内ドキュメントや議事録、自分用のメモを作成している方も多いようです。なぜ、Markdownが求められるようになったのか、ドキュメント作成の変遷と、現在のドキュメント管理における課題について、最初に説明を加えたいと思います。
1-1. ドキュメント作成の変遷
Windows 95の登場により、世界的にPCを業務に使用することが一般に浸透していきました。その後、ビジネス文書をワープロやタイプライターからPCで作成することがほとんどの企業で広まっていきました。Word以外にもLotusや一太郎など文書を作成するための数々のソフトウェアが試されてきましたが、やがてMicrosoft Wordが文書作成ソフトのスタンダードとなったのです。 そして、多くの資料や文書が.docxというファイル形式で作成されることになりました。ソフトを立ち上げる際のイルカのヘルパーも今や懐かしく感じますね。
1-2. ドキュメンテーションの序章:Wordの勃興と限界
Wordの運用に関して、あくまでもエンジニアの視点で感じる課題をお話ししたいと思います。 プログラマーとしてスタートアップ企業でウェブ開発をしていた私は、当初からあまりWordが好きでは無く、Windowsにオマケで付いていたメモ帳やWordPadという簡易プロセッシングソフトを主に使用しておりました。当時はパソコンのスペックが低く、Wordを立ち上げるためのメモリが惜しかったことや、Wordで保存した文章の内容はWordで無いと読めないことなどが不便と感じておりました。何しろ私たちはviという原始的なメモ帳ソフトのようなものすら日常的に使っていたからです。
やがてWordを中心としたドキュメント運用が無視できないストレスとなってきました。バージョン管理をしようにも、Wordのバイナリ形式が妨げになり、差分の把握が難しい。メンバー間でWordのバージョンが違うと書式が崩れ、段落がズレる。ファイルサイズもどんどん大きくなり、メール添付すら億劫になる。そして一番つらかったのは、「変更した履歴をコードのようにきれいに管理できない」という点でした。
たとえば、ある機能仕様をアップデートしようとしてWordファイルを開き、細かい箇条書きを少し書き直すだけでも、他のメンバーが同じ文書を編集していた場合には競合が生じてしまうのです。そうなると、どちらかが修正内容をロールバックする必要があり、その過程で書式情報まで壊れてしまうこともしばしば。ドキュメンテーション作業に費やす時間と労力は膨大なものとなり、プロジェクトの進捗すら脅かされかねませんでした。
また、ファイルを開くたびに「この文書は前回どこが変わったのだろう」という疑問と戦わなければならないのは、開発者にとって大きなストレスです。コードであればバージョン管理システム(今ではGitですが、当時はCVSと呼ばれる仕組みを使用してました)の差分を見れば一目瞭然ですが、Word文書ではそうはいきません。ファイルのネーミングで、「●●プロジェクト資料【最終版】.doc」「【最新】●●プロジェクト資料_01.doc」「●●プロジェクト資料_fixed(PM承認済み).doc」のようなファイルが乱立する状態はこの頃から始まったように思います。 これは私だけでなく、多くの開発者が同じように感じていたことです。
こちらの記事もご覧ください。
【コラム】WordからWebマニュアルへ – Jamstackで広がる選択肢 | Jamstackブログ | 株式会社ヒューマンサイエンス
1-3. 処理の難しさ
Word文書を使うデメリットとして多くのエンジニアが直面したのは、処理の難しさです。 Word文書をWordで開いて読む分には何の問題もありません。しかしそれを人間の目では無く、機械の目で見たいときには大きな問題になりました。 Wordを通してではなく、プログラムからその文書の中身を読み取り処理したいというニーズは高まってきました。例えば請求書のファイルからプログラムが金額や支払い日を読み取って、システムに反映させたいなどです。アップロードされたそのような文書を機械的に処理するというニーズに対して、WordやExcelは大きな障害でした。
このようなニーズが非常に高かったため、当時Java開発者の間で流行っていたApacheプロジェクトに、Apache POIというオープンソースプロジェクトが立ち上がり、Word文書を読み取るためのライブラリHWPFが開発されました。Word 97-2003形式(.doc)はバイナリ形式となっており、Apache POIが提供するHWPF(Horrible Word Processing Format)ライブラリは名前が示すとおり、「ひどい(Horrible)」 ほど複雑な構造を扱わなければいけないという意味合いを帯びています。バイナリファイル内に埋め込まれた書式やオブジェクトの情報を解析しようとすると、膨大な時間と手間を要するのです。当時の多くの開発者がこのネーミングに共感したものです。
プログラミングの世界では、テキストベースの変更差分管理が当たり前です。たとえばソースコードの管理にはGitが用いられ、diffをとれば変更内容がひと目で分かる。レビューもしやすく、誰がいつどこを変えたのかが詳細にわかります。ところが、Word文書ではそうした恩恵を受けにくくなっています。自動テストやCI/CDパイプラインと連動させるのも至難の業です。
そこで、開発者たちは口々に言うようになりました。「ドキュメントもソースコードと同じように管理したい」「バイナリファイルなんてこりごりだ」「もっと軽量なフォーマットはないのか?」── こうした声が徐々に高まり、変革への渇望は日増しに強くなっていったのです。
1-4. Markdown記法の登場
それで開発者の多くは文書や資料をできるだけ簡易に作成できるように、引き続き.txt形式、つまりメモ帳などのテキストエディタで作成していました。窓の杜でダウンロードできる秀丸エディタやEmEditorのお世話になった方も多いのではないでしょうか。 外国人スタッフが多かった私の職場では、Linuxで開発していたこともあり、emacs派とvi派に分かれていました。しかしテキストフォーマットであるとはいえ、書き方は人によってまちまちでした。見出しを表すための記号なども統一されておりませんでした。
そんな長い歴史を経て現れたのがMarkdown記法です。Markdownは2004年にJohn GruberとAaron Swartzによって開発された軽量マークアップ言語で、シンタックス(記法)が非常にシンプル。見出しには`#`、リストには`-`、リンクは`[名前](URL)`という具合に、直感的で覚えやすい。Word文書のように複雑なバイナリ形式ではなくプレーンテキストなので、Gitで管理しても差分が明確に分かります。書式が崩れる心配もほとんどありません。
チーム内でもそういった技術に敏感な人たちが早速それを使い始めました。私もすぐにその良さに気づき、試しに自分のプロジェクトの仕様書をMarkdownに書き直してみることにしました。すると、驚くほどスムーズにドキュメンテーションが進むのです。不要な書式設定に悩まされることなく、文章の内容そのものに集中できる。「ドキュメントを書くこと がこんなに軽快になるとは!」 と、目から鱗が落ちる思いでした。
2. Markdownのメリット
Markdownのメリットとして、大きく2つ挙げられます。それは、「複雑さの排除」と「文章への集中」です。Word文書の場合、テキストだけでなく、その周囲のデザインやレイアウト、フォントスタイルなど、多くの要素が複雑に絡み合っています。もちろん、ビジネス文書としてはそれらの書式を整えることも重要ですが、ソフトウェア開発や技術文書の現場では、内容が常に変化し、頻繁に更新されるという性質があります。更新が多い文書で細かい書式を維持するのは、想像以上の手間です。
より具体的なメリットを見ていきましょう。
2-1. Markdownのシンプルな記法と学習コストの低さ
Markdownでは、以下のようなシンプルで直感的な記法を採用しています。
・見出し:# 見出し1、## 見出し2 など
・強調:**太字**、*斜体*
・リスト:`-`や`*`で表現
・リンク:`[リンク名](URL)`
どれも「人間が読んだとき」に自然な文章として理解しやすく、かつ機械による処理もしやすい構文です。よって、習得に時間がかからず、チームメンバー全員が一斉に移行しても大きな混乱は起きにくいです。記法をまとめたチートシート1枚をオフィスの壁に貼っておけば、誰でもすぐに書き始めることができます。
2-2. MarkdownがGitと相性が良い理由
Markdownファイルはプレーンテキストなので、Gitなどのバージョン管理システムとの相性が抜群です。差分を比較すればどの行が修正されたのか明確に分かり、レビューも簡単です。また、複数人が同時にドキュメントを編集する場合でも、競合があっても解消しやすいのが特長です。
Githubでの正式な記法として使用されるようになったことも普及の大きな一因です。
2-3. Markdownの多様な出力形式と活用方法
MarkdownはHTMLなどへの変換が非常に容易です。VitePressやAstroといった静的サイトジェネレーターを使えば、Markdownファイルをソースとして自動的にドキュメントサイトを生成できます。
以前はWordで書いた文書をPDFに変換し、それをさらにWebサイトにアップロードするなど、多段階の作業が必要でしたが、Markdownを使えば一気通貫でサイト化が可能となります。サイトを更新したいときもMarkdownファイルを修正して再ビルドするだけです。
これほど手軽なワークフローは、従来の方法ではなかなか実現できませんでした。こうしてMarkdownファイルをソースとして様々な形式に展開したり発信したりできるようになったのです。
IT企業に求められるドキュメントソリューションのポイントや、開発者にとって親和性の高いドキュメント作成環境について、詳しく知りたい方は、ぜひ以下の資料をダウンロードしてご覧ください。
3. Markdownを使ったWebマニュアルの導入事例
実際に弊社がMarkdownを導入した事例をご紹介したいと思います。
●株式会社両備システムズ様
<背景/ニーズ>
もともとWordでマニュアルを作成されていた両備システムズ様は、Webマニュアルの必要性を感じ、問い合わせをいただきました。
以前からGitHubを導入しており、仕様書はMarkdownで作成されていたこともあり、マニュアルの原稿データをWordからMarkdownに置き換えることにされました。そうすることで、仕様書の作成時と同様の環境でマニュアルのメンテナンスを行うことができるようになりました。
<導入プロセス>
Markdownでのマニュアル執筆
マニュアル対象の整品仕様書と開発デモ環境を貸与いただき、ヒューマンサイエンスのテクニカルライターが、Markdown記法でマニュアルを執筆しました。
今では、Markitdownを使って、WordファイルからMarkdownに変換する手法も注目されています。
ワンソースマルチユースでのマニュアルデータ制作
Markdownで作成した原稿データをHTMLとPDFの双方に変換する方法として、オープンソースのドキュメント作成ツールGitBookを用いた出力システムを構築しました。


補助ツールの開発
MarkdownからHTML/PDFへの変換システムを確立後、より簡単にマニュアルのメンテナンスを進められるよう、いくつかの補助機能を備えたGUIツールを開発しました。
たとえば、本システムの基本仕様では、マニュアルの章・節の順序を変更するには手動でMarkdownファイルに変更を加える必要がありましたが、GUIツールにより、直感的な操作で順序変更ができるようになりました。
このように、Markdownを採用したマニュアル作成のご要望にもお応えすることができます。
株式会社両備システムズ様の事例につては以下のページもご覧ください。
Markdownを利用したHTML/PDFマニュアル作成システムの構築 | 事例 | 株式会社ヒューマンサイエンス
最近では、Markdown×Jamstackを採用したWebマニュアルの開発にも取り組んでいます。
IT企業向けドキュメントソリューション選定のポイント|ヒューマンサイエンス
4. Markdownの広がり
Markdownは、現在においても様々な応用が考えられています。コミュニティや企業が中心となって、拡張記法やプラグインが次々に生み出され、より柔軟な表現力が備わってきています。以下に、その一端を紹介します。
GitHub Flavored Markdown(GFM)
テーブルやタスクリスト、行内コードブロックなどを簡単に書けるGFMは、すでにGitHub上で事実上の標準となっています。ソフトウェアドキュメントに特化した機能が充実し、READMEやWikiをはじめとする様々な場所で活用されています。
数式や図表の拡張
KaTeXやMathJaxを使って数式を記述したり、MermaidやPlantUMLでフローチャートやシーケンス図を描いたりと、技術者にとって欲しい機能が続々と追加されています。これにより、研究レポートやアカデミックな文書、システム設計資料をMarkdownで完結できるようになりました。
AIとの統合
最近では、AIを利用してMarkdown文書の校正や翻訳を自動化する取り組みも活発化しています。自然言語処理技術と組み合わせることで、日英の双方向翻訳や要約生成などを高度に行えるようになり、グローバルな企業やプロジェクトにおいては、特に大きなメリットをもたらすでしょう。
このように、Markdownは単なるテキスト記法にとどまらず、“情報を効率よく共有するためのプラットフォーム” へと進化していると言えます。開発者はもとより、ドキュメント作成に関わるすべての人にとって、より大きな可能性となっています。
5. 最後に
もしあなたが、今まさにWord文書を使ったドキュメント運用に苦労しているのなら、一度Markdownへの移行を検討してみてはいかがでしょうか。もちろん、企業文化やプロジェクトの性質によっては、一気に全面移行が難しい場合もあるかもしれません。しかし、小さな領域からでも試してみてはどうでしょうか。
Markdownへの移行は、単なるファイル形式の変更ではなく、生産性と創造性を増すための手段になります。バイナリ形式に縛られず、コードを書くようにドキュメントを管理することは、開発者だけでなく、テクニカルライターや他部門のステークホルダーにとっても、わかりやすくシンプルな環境として大きなメリットとなります。
私たちのチームでも、Markdownを採用した結果、「ドキュメントを更新するのが面倒」という声が減り、「必要な情報をさっと共有できる」「常に最新情報が維持されている」という安心感が広がり、社内のコミュニケーションコストは格段に下がりました。
日々の業務の中で、「ドキュメント作成が煩雑で、効率が悪い」と感じることはありませんか?それは、新たな方法を取り入れるタイミングかもしれません。 Markdownを導入することで、作業負担を軽減し、より柔軟でスピーディなドキュメント運用が可能になります。実際に導入した企業では、「なぜもっと早くMarkdownに切り替えなかったのか」との声も聞かれます。
今こそ、チームのドキュメント管理を見直し、新たな可能性を広げる第一歩を踏み出してみませんか? 次回のブログでは、Markdownの基本的な記法とWebマニュアルに求められる要素の表現方法をご紹介します。
6. マニュアル作成・改善のご相談はヒューマンサイエンスへ
ヒューマンサイエンスは、日本語版のマニュアル作成から英語および多言語翻訳まで、ワンストップでご支援いたします。1985年からの長きにわたり数々のマニュアルを手がけてきた実績があります。以下のようなニーズがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
・既存の日本語マニュアルや英語マニュアルを分かりやすく改善したい
・英語マニュアルの作成を検討していて、日本語マニュアルから段階的に進めたい
・社内で作成された日本語マニュアルを英訳(多言語訳)して活用したい
特長①:大企業・グローバル企業を中心とした豊富なマニュアル制作実績
ヒューマンサイエンスは、製造業やIT業界を中心に、多岐にわたる分野でマニュアル制作実績を積み重ねてきました。これまでに「ドコモ・テクノロジ株式会社」「ヤフー株式会社」「ヤマハ株式会社」など、名だたる企業をクライアントとしてきました。
マニュアル制作事例紹介| ヒューマンサイエンス
特長②:経験豊富なコンサルタントによる調査・分析からアウトプットまで
業務マニュアル作成に携わるのは、ヒューマンサイエンスが誇る経験豊富なコンサルタントになります。熟練のコンサルタントが、豊富な経験と提供された資料から、より分かりやすく効果的なマニュアルを提案します。また、情報が整理されていない段階からのマニュアル作成も可能です。担当のコンサルタントがヒアリングを行い、最適なマニュアルを作成いたします。
マニュアル評価・分析・改善提案サービス| ヒューマンサイエンス
特長③:マニュアル化だけでなく、定着支援も重視
ヒューマンサイエンスは、マニュアル作成にとどまらず、”定着化”という重要な段階にも注力しております。マニュアル作成後も、定期的な更新やマニュアル作成セミナーを通じて、マニュアルの定着を支援してまいります。多岐にわたる施策により、現場でのマニュアルの有効活用をサポートいたします。
マニュアル作成セミナー| ヒューマンサイエンス
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このブログがわかりやすいマニュアル作成のヒントになれば、うれしく思います。
IT企業に求められるドキュメントソリューションのポイントや、開発者にとって親和性の高いドキュメント作成環境について、詳しく知りたい方は、ぜひ以下の資料をダウンロードしてご覧ください。