
製薬・メディカル分野の翻訳業務では、文書の改訂に伴う「差分翻訳」が日常的に発生します。
しかし実際には、
• 変更箇所の特定に時間がかかる
• 過去訳を活用したいが手作業が多い
• 品質維持のためレビュー負荷が高い
といった課題を抱えているケースも少なくありません。
そこで弊社では、MTrans for Tradosを活用した差分翻訳プロセスの実証実験を実施しました。
本記事では、その取り組み内容と得られた知見をご紹介します。
- 目次
1. 差分翻訳が非効率になりやすい理由
差分翻訳とは、旧版と改訂版を比較し、変更された箇所のみを翻訳する作業です。
医薬品翻訳やマニュアル翻訳では、過去訳を再利用しながら変更箇所のみを翻訳することで、コスト削減と品質維持を両立できます。
特に医薬品規制文書では、
• 改訂頻度が高い
• 過去訳の再利用が前提
• 用語・文体・書式の一貫性が求められる
という特徴があります。
そのため、翻訳業務全体の8〜9割が差分対応となるケースもあります。
現場で発生している課題
多くの現場では、以下のような作業が発生しています。
• Wordの変更履歴を目視確認
• CATツール(翻訳支援ツール)で拾いきれない差分の確認
• 「本当に変更がないか」の再チェック
効率化したい工程ほど人手に依存しているという状況が生まれています。
2. MTrans for Tradosで何が変わるのか
Tradosは、RWS社が提供するCATツール(翻訳支援ツール)です。翻訳メモリや用語集を活用することで、翻訳品質の一貫性向上や作業効率化を支援しており、医薬品翻訳をはじめとする専門分野でも広く利用されています。
「MTrans for Trados」は弊社が開発している機械翻訳ソリューションです。
詳細については以下もご参照ください。
>Trados連携 機械翻訳ソリューションMTrans for Trados
今回の実証実験では、MTrans for Tradosを活用することを前提に、差分翻訳プロセスを次のように再設計しました。
これらをTrados上で一気通貫に処理することで、「差分を探す作業」そのものを削減することを目指しました。
従来プロセスとの比較
3. 実証実験で見えた成果
作業時間の比較
実証実験では以下の結果が得られました。
• 手作業プロセス:約12.5時間
• MTrans for Trados活用プロセス:約11.1時間
約11%の時間削減を確認できました。
AI翻訳のプロンプトやTM(翻訳メモリ)の整備次第では、20-30%の時間削減も期待できます。
翻訳メモリとは、過去の原文と訳文の対訳データを蓄積し、再利用する仕組みです。
同一または類似する文章を自動的に提示できるため、翻訳品質の均一化や作業時間短縮に役立ちます。
4. 見えてきた課題と活用のポイント
実証実験では成果だけでなく、課題も見えてきました。
課題
• 文体や用語の揺れはポストエディット後の人手確認も必要になる場合がある
• 導入初期は人手確認負荷が増加する場合がある
重要な示唆
一方で、次のポイントが成果を大きく左右することも分かりました。
• TM(翻訳メモリ)・用語集・プロンプト整備
• 初回は投資、2回目以降で回収する発想
5. 差分翻訳で成果を出すために
今回の取り組みを通じて見えてきたのは、「ツールそのもの」だけではなく「運用設計」も重要ということです。
具体的には、
• 差分を拾うのではなく差分を前提に設計する
• 翻訳前の準備に時間をかける
• 人が対応すべき工程と自動化できる工程を切り分ける
といった考え方が重要になります。
これにより、品質を維持しながら継続的な効率化を実現できます。
6. まとめ:差分翻訳は「改善余地の大きい工程」
差分翻訳は「仕方なく時間がかかる工程」ではなく、「設計次第で最も改善効果が期待できる工程」です。
今回の実証実験を通じて、MTrans for Tradosはその実現を支援する有効な選択肢の一つであることが確認できました。差分翻訳に課題を感じている方は、一度翻訳プロセス全体を見直してみてはいかがでしょうか。
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