
翻訳品質を効率的に向上させるために、ヒューマンサイエンスではChatGPT翻訳校正ツール(※社内では““LLM校正ツール”と呼んでいます)を開発・検証しました。本ブログでは、そのツールの開発背景や特徴、実際の検証結果で得られた効果と課題についてご紹介します。生成AIが見つけた指摘例や有用性の分析を通じて、翻訳業務へのAI活用の現状と今後の展望を考察します。
関連ブログ
>第一回:医療翻訳への生成AI導入は進んでいる?現状と課題を徹底解説
>ChatGPTによる医学翻訳の効率アップは可能?プロンプトを用いたリアルな検証結果をご紹介!
>ChatGPTと医学翻訳
>ChatGPTと医学翻訳② 医学翻訳でも「プロンプト」は有効か? 試してみた
- 目次
-
- 1. ChatGPT翻訳校正ツールの開発背景と特徴
- 1-1. 開発の背景
- 1-2. ツールの特徴
- 1-3. 設計上のポイント
- 2. ChatGPT翻訳校正ツールの事例3選:医療文書での活用
- 2-1. 活用事例1:翻訳抜けの指摘
- 2-2. 活用事例2:原文の誤記の指摘
- 2-3. 活用事例3:用語表記ゆれの指摘
- 3. AI翻訳校正事例から見えた検証結果と課題の考察
- 3-1. AI指摘の有用性検証
- 3-2. AI校正のメリット・デメリット
- 3-3. 今後の改善と展望
- 4. AI翻訳・校正のご相談はヒューマンサイエンスへ
- 4-1. 豊富な実績とAI活用ノウハウ
- 4-2. 専門分野に精通したプロ翻訳者
- 4-3. セキュリティ重視の安心サポート
1. ChatGPT翻訳校正ツールの開発背景と特徴
本章では、第一回ブログで述べた課題を受けて開発されたChatGPT翻訳校正ツールの背景と特徴について説明します。
1-1. 開発の背景
前回(第一回)のブログでは、医療翻訳における生成AI導入の現状と課題について言及しました。これらの課題に対応するため、ヒューマンサイエンスでは社内開発のChatGPT翻訳校正ツールを試作しました。このツールは「ChatGPT翻訳校正ツール」と呼ばれ、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を翻訳文の品質チェックに組み込んだものです。目的は、翻訳者が生成AIの力を手軽かつ安全に活用できる環境を提供し、人間の校閲者による確認作業を効率化することにありました。
1-2. ツールの特徴
この「ChatGPT翻訳校正ツール」は、翻訳元原文と訳文を突き合わせてAIが自動チェックを行う仕組みになっています。具体的には、以下のような観点で多角的に訳文を点検します。
· 訳漏れの検出:原文の内容が訳文で落とされていないかをチェックし、重要な情報の抜けを指摘します。
· 誤訳の検出:訳文の誤りを指摘します。
· 不自然な表現の検出:訳文の文体や表現が不適切・不自然でないかを評価します。
· 形式的エラーの検出:スペースの有無など、表記の形式ミスをチェックします。
以上のように、人間の校閲では見落としがちな細部のミスも含め、多様なエラーを洗い出すことがこのツールの特徴です。例えば「翻訳漏れ」や「用語表記ゆれ」といった問題を自動で検知できるため、品質保証の観点で大きな効果が期待できます。
1-3. 設計上のポイント
このツールの開発にあたっては、生成AIを翻訳現場で安心して活用できるようにすることが重視されました。社内環境にツールを実装し、API連携によりChatGPTを利用することで、訳文データが外部に漏洩しないよう配慮しています。翻訳者は高度なAIの機能を意識せずとも手軽に利用でき、人とAIの協調が図れるようになっています。
2. ChatGPT翻訳校正ツールの事例3選:医療文書での活用
実際にこのChatGPT翻訳校正ツールを使うと、どのような指摘が得られるのでしょうか? ヒューマンサイエンス内で行った医療文書を用いた検証から、代表的な3つの指摘事例をご紹介します。
2-1. 活用事例1:翻訳抜けの指摘
ある医療機器の治験計画書の翻訳で、製品名「Product X」が訳文に抜け落ちていたケースがありました。ChatGPT翻訳校正ツールはこの製品名の欠落を自動検出し、「重要な情報が訳されていない」と指摘しました。専門文書における製品名や薬剤名の訳漏れは致命的なミスですが、AIのチェックにより人間の見落としをカバーできた好例と言えます。
2-2. 活用事例2:原文の誤記の指摘
別の医学論文では、遺伝子名「PTNPN22」が原文からしてタイポミス(誤記)でした。訳文もそれに従って誤ったままでしたが、ChatGPT翻訳校正ツールは「PTNPN22は原文の誤記で、正しくはPTPN22」だと教えてくれました。このように、原文側のミスまでAIがチェックして指摘してくれます。翻訳者でも気付きにくい原文の誤りを発見できるのは、生成AIならではの強みです。
2-3. 活用事例3:用語表記ゆれの指摘
免疫学分野の翻訳で、本来「IL-3」と表記すべきところを一部で「IL3」と訳してしまったケースがありました(※こちらも日本語原文自体に表記ゆれが存在していたことも要因になっています)。ChatGPT翻訳校正ツールは「英語ではハイフン付きなので、日本語訳もハイフンを入れるべき」と形式上の統一漏れを指摘しました。専門分野では用語表記の統一が重要ですが、AIが機械的にチェックすることでヒューマンエラーによる揺れを防止できます。
以上、ChatGPT翻訳校正ツールは人間の目では見落としがちなエラーも含めて指摘を提供してくれることが分かりました。特に例2のように「原文段階の誤り」まで検知できる点は大きな強みです。これは従来の翻訳支援ツールでは難しかった部分であり、生成AIならではの価値と言えます。
3. AI翻訳校正事例から見えた検証結果と課題の考察
続いて、このツールを実際に使ってみた検証結果を分析し、その有用性と課題について考察します。
3-1. AI指摘の有用性検証
医療文書約1,000ワードを対象にChatGPT翻訳校正ツールを試したところ、平均して20件程度の指摘が生成AIから提示されました。指摘の種類は大きく以下の3つに分類されます。
· 誤訳・訳漏れに関する指摘(43%)
· 不適切/不自然な表現に関する指摘(14%)
· 形式的なエラー(スペースの有無等)に関する指摘(43%)

この中で、人間が精査して「有用」と判断した指摘は全体の約17%に留まりました。残りは、約20%が明らかに誤った指摘(誤りでない箇所を誤訳と指摘する等)、約60%が指摘自体は正しいものの翻訳品質に影響しない細かな事項(不要な指摘)でした。つまり、現時点では「的確な指摘」よりも「不要または誤った指摘」の方が多いという結果です。

一見すると「AIの指摘の大半は役に立たないのでは?」と思われるかもしれません。しかし注目すべきは、その17%の有用な指摘の中に見逃せない重大な誤りが含まれていた点です。例にも挙げた製品名の訳抜けや数値・固有名詞のミスなど、放置すれば大きな問題となるエラーを事前に検知できたことは品質保証上の大きなメリットでした。また、現在社内ではプロンプト(AIへの指示文)の改善やチェック観点を重要なものに絞るなど、指摘精度向上に向けた工夫を進めています。
3-2. AI校正のメリット・デメリット
一方、AIによる校正導入で浮き彫りになったデメリットもあります。有用な指摘以外に不要な指摘や誤指摘が多いため、それらを取捨選択する手間が発生することです。実験では、AIチェックを加えたことで翻訳全体の作業時間が増加し、1万ワードの文書で従来より2~3時間程度余計にかかりました。これはAIの指摘を人間が確認・検証する手間によるものです。メリットとデメリットを整理すると、次のようになりました。
メリット | デメリット |
---|---|
・原文の誤記や訳抜けなど重大なミスを検出できる ・訳文の表記ゆれを是正し、品質の属人性を減らせる可能性がある ・人間では見落としがちな細部のチェックを自動化できる |
・誤指摘や重要度の低い指摘が多く、取捨選択に手間がかかる ・現状ではチェック工程追加により全体の作業時間が増える ・AIの判断に過信は禁物で、最終確認は専門家が必要 |
今回のヒューマンサイエンスの検証では、現時点の生成AI校正は「品質向上」には貢献 するものの、「作業効率」への寄与は限定的という結論に至りました。生成AIならではの有益な指摘によって品質は底上げできる一方で、誤指摘への対処に時間を取られ、トータルでは効率がむしろ低下する傾向が見られたのです。
3-3. 今後の改善と展望
しかし、これは裏を返せば「AIの指摘精度が向上すれば非常に有用な武器になる」ことを意味します。現在まだ指摘の質には改善の余地が大きく、今後の開発しだいで不要な指摘を減らし有用な指摘の割合を高められる可能性があります。事実、ヒューマンサイエンスでは今回の結果を受け、より精度の高い指摘を引き出すプロンプト最適化など、さらなる研究・改良を継続中です。
以上、第二回ではChatGPTを応用した翻訳校正ツールの効果と課題を見てきました。次回の第三回では、この生成AIを実務で活かすための「人とAIの協業モデル」について考察します。AIに何を任せて何を人間が担うべきか、そして今後の展望について掘り下げて解説する予定です。
4. AI翻訳・校正のご相談はヒューマンサイエンスへ
AIを活用した翻訳・校正について、「自社でも導入してみたい」「効率化できるか相談したい」とお考えでしたら、ぜひヒューマンサイエンスにご相談ください。弊社は翻訳サービスと最先端AI技術の双方に精通したパートナーとして、お客様のニーズに合わせた最適解をご提案いたします。
4-1. 豊富な実績とAI活用ノウハウ
ヒューマンサイエンスは1985年の創業以来、マニュアル制作から専門文書の翻訳まで数多くの実績を積み重ねてきました。近年では機械翻訳(MT)やChatGPTなどのAI技術の活用ノウハウも蓄積しており、AI翻訳サービスの提供を通じて、お客様の業務効率化を支援しています。
4-2. 専門分野に精通したプロ翻訳者
各専門分野に精通した経験豊富な翻訳者・校正者が在籍している点も弊社の強みです。医療・IT・製造など分野ごとの知識を持つプロフェッショナルがAIの提案内容を適切に評価・取捨選択し、最終的な品質を保証します。AIだけに頼らず必ず人間の目で最終チェックを行うことで、正確で読みやすい翻訳をお届けします。
4-3. セキュリティ重視の安心サポート
翻訳プロセスにAIを取り入れる際、情報セキュリティへの配慮は欠かせません。ヒューマンサイエンスでは、お客様の機密情報を守るための社内体制を整えており、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)等の国際規格の認証も受けています。安心して最新AI技術のメリットを享受できるようサポートいたします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回の内容が翻訳業務の効率化や品質向上に関するヒントとなれば幸いです。AI活用や翻訳サービスについての詳しい情報やご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。