この組版どう思いますか?
これは中国語(繁体字)の組版であるのにもかかわらず、台湾人が見ると違和感を覚えると思います。台湾=繁体字のはずなのにこれは一体どういうことなのでしょうか。
良くない点
改善案
繁体字は2種類ある
中国語の繁体字は台湾と中国本土で異なり、台湾は「国字標準字体」、本土は「新字形」です。違いがわかりやすいのは句読点の位置ですが、漢字の字形もところどころ違います。上記の「良くない例」は繁体字の文章に簡体字のフォントが当たっており、台湾人は見慣れない字形に違和感を覚えることでしょう。繁体字は仕向け地によってフォントを使い分ける必要があります。
古参の組版者は中国語フォントといえば繁体字=Big5、簡体字=GB(2312)の二分法で覚えていると思います。その後GB2312はGBKを経てGB18030という規格になり、収録字数が大幅に増えました。簡体字だけでなく繁体字や少数民族言語の文字などもサポートされるようになったのですが、その繁体字の字形は台湾のものとは異なります。簡体字フォント1つで台湾向けの繁体字も組めるようになったわけではないので注意が必要です。
本土と台湾の違いはこんなところにも
中国語の基本4書体は宋体・黒体・楷体・仿宋体です。宋体は明朝体、黒体はゴシック体、楷体は楷書に相当しますが、仿宋体は日本語組版ではそれほど目にしないかもしれません。仿宋体は中国本土の公文書や政府系メディアなどで使われることが多く、ちょっとお堅い印象がします。台湾ではこういった場面で楷体が使われる傾向があるようです。こんなところにも本土と台湾の違いがあります。
主なフォントメーカー
本土のトップシェアは方正(Founder)、次いで漢儀(Hanyi)。他に台湾の華康(DynaComware)・文鼎(Arphic)、香港の蒙納(Monotype)が有名どころでしょう。国産だとスクリーンの中国語版ヒラギノ角コ゚は高い評価を得ています。AdobeとGoogleが共同開発したSource Han Sans/Serif(Noto Sans/Serif CJK)もなかなか良いようです。
アラビア文字
ArialとTimes New Romanは避ける
欧文フォントの定番であるArialとTimes New Romanにはアラビア文字も収録されています。英語と同じフォントで組めるなら作業が楽なのでは?と思うかもしれませんが、私は使わないことを強く推奨します。理由は2つあります。1つはカーニングが拙くて単語の途中にスペースがあるかのように見える場合が多々あること。もう1つはラテン文字とのサイズのバランスが悪くベースラインも合っていないことです。
カーニングが適正でラテン文字とのバランスも良いフォントは他にいくらでもありますので、そういった中から選ぶことをおすすめします。そもそもArialやTimes New Romanの字形は大して読みやすいデザインでもありません。あなたはよく吟味して気に入ったからこのフォントを使うことに決めたのでしょうか。きっと違いますよね? もうこれ以上惰性で使い続けるのはやめにしましょう。
よくわからなければベンダーに任せる
経験上、アラビア語に不案内なユーザーにフォント見本を見せるとまあまあな割合で場違いなフォントを選んでしまいます。そうならないようフォントは極力こちらからご提案するようにしています。言語と組版に目が利く人でないとフォントを選ぶのは難しいと思いますので、信頼できるベンダーに任せることをおすすめします。
タイ語
ループありとループなしの使い分け
タイ語には様々な書体がありますが、大雑把にループあり書体(フォント・ミー・フア)とループなし書体(フォント・マイミー・フア)の2つに分けられます。ループあり書体は書籍本文など「読ませる用途」に適しています。ループなし書体は広告・看板・本の表紙など「見せる用途」に使われ、長文にはあまり適していません。
明朝体のように縦線が太く横線が細い書体は欧文のセリフ書体と相性が良く、ゴシック体のように均等線の書体は欧文のサンセリフと相性が良いようです。
見出しをループなし書体、本文をループあり書体、といった具合に使い分けるのはごく普通のことです。太さだけでなく字形も変わるせいか戸惑うユーザーもたまにいるのですが、ネイティブの目から見たら全然問題ありません。
>>関連資料:ポストエディット品質チェックシート ダウンロード
執筆者情報
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石井 源太マルチリンガルトランスレーショングループ
DTPディレクター- ・前職ではアラビア語・タイ語・中国語などアジア言語のDTPを担当。製品カタログや取扱説明書の制作に従事。
- ・現在は担当言語を欧文全般まで広げ、DTPに加えeラーニングの多言語ローカライズも担当している。