
マニュアルや取扱説明書など、テクニカルライティングを用いた文書では、何よりも内容の分かりやすさが優先されるため、複雑な文法や文章構造は避けることが大切です。
今回は、前置詞句の使い方について取り上げます。
テクニカルライティングでは、前置詞句を使いすぎると不自然で理解しにくい表現になるケースが多いため、使用する際には注意が必要です。
適切ではない前置詞句を使用した例をいくつかご紹介します。
- 目次
>>関連DL資料:機械翻訳訳文エラーとポストエディット9つの事例&ポストエディットチェックシート
5つのポイントとは?

1. 適切ではない前置詞句を使用した例①
- ・原文:この設定を有効にすると、フォント設定ダイアログでフォント全体を選択できるようになります。
- ・訳文(修正前):With this setting enabled, whole fonts can be selected on the Font setting dialog.
- ・訳文(修正後):When this setting is enabled, whole fonts can be selected on the Font setting dialog.
(修正前)の文章では、原文の「この設定を有効にすると」に対し、前置詞句として、付帯状況を表す「with+O+C」構成※が使われています。文法や構成的に間違いはありませんが、テクニカルライティングでは、より分かりやすい(=読みやすい)従属節を使うケースが多いため、(修正後)のように修正しました。
※付帯状況を表す「with+O+C」構成:主文に状況を付帯するために使われるwithの用法で、「…しながら,…したままで」という意味を持つ
2. 適切ではない前置詞句を使用した例②
- ・原文: このフラグをONにすると、システムの統計情報のみが表示されます。
- ・訳文(修正前):With this flag turned on, only system statistics will be displayed.
- ・訳文(修正後):If this flag is turned on, only system statistics will be displayed.
この例も①と同様に、付帯状況を表す「with+O+C」構成が使われているため、従属節に修正し、読みやすくしました。
3. 適切ではない前置詞句を使用した例③
- ・原文: エラー状態を解消して,[クリア]ボタンをクリックすることで,エラーの表示がクリアされます。
- ・訳文(修正前):Resolve the error status before clicking the [Clear] button to clear the error display.
- ・訳文(修正後):Resolve the error status and click the [Clear] button to clear the error display.
(修正前)の「resolve… before clicking…」だと、「~をクリックする前に~を解消する」という意味になるため、原文の「~を解消して~をクリックする」と一致します。しかし、ここでは、あえてこの表現をする必要はありません。「動作①をする ⇒ 動作②をする」(「resolve … and click…])としたほうがより読みやすく、マニュアルの表現として適切です。
4. 適切ではない前置詞句を使用した例④
- ・原文:アンプの電源を切った状態で、各スピーカーとアンプをスピーカーケーブルで接続します。
- ・訳文(修正前):In a state of the amplifier being switched off, connect each speaker to the amplifier with the speaker cable.
- ・訳文(修正後):While the amplifier is switched off, connect each speaker to the amplifier with the speaker cable.
(修正前)は、原文の「アンプの電源を切った状態で」が前置詞句として存在しているため、冗長で読みにくい構成になっています。このような「~状態で」の表現は、「While S+V+O」で表現したほうが自然で読みやすくなります。
5. 適切ではない前置詞句を使用した例➄
- ・原文:doc形式を展開した場合[編集して返信]をクリックして編集すると、自動でdocx形式として保存されます。
- ・訳文(修正前):Expanded doc format documents will automatically be saved in docx format upon clicking “Edit and reply” to edit.
- ・訳文(修正後):Expanded doc format documents will automatically be saved in docx format when “Edit and reply” is clicked to edit.
「upon + clicking」は、「クリックし次第」・「クリックしたら(すぐ)」のような意味を持つため、意味は原文と一致します。しかし、「upon」は使用頻度が少ない前置詞で、「upon + ~ing」は、英語が母国語ではない人にとっては理解しにくい表現なので、避けたほうがよいでしょう。
一般的なライティングでは、節と句が両方使用できる場合、適切ではない代名詞や助動詞などを避けるために、節よりも句がよく使われます。たとえば、「There are two key metrics that you can use to judge success.」よりも「There are two key metrics with which to judge success.」といった表現のほうが多く使用されます。
しかし、その傾向がテクニカルライティングでも同様に適用されるわけではありません。特に技術翻訳を行う場合、一般的なライティングとテクニカルライティングの基本的な違いを認識しておくことが重要です。
>>関連DL資料:機械翻訳訳文エラーとポストエディット9つの事例&ポストエディットチェックシート
5つのポイントとは?
