
近年のAI技術の進化により、NLP(自然言語処理)の活用はすでに私たちの生活やビジネスの中で一般的になりました。検索エンジン、チャットボット、翻訳ツールなどが普及し、情報の取得やコミュニケーションの方法が大きく変化しています。
特に、LLM(大規模言語モデル)の登場により、AIが人間の言語をより自然に理解し、生成できるようになったことは革命的な進歩です。しかし、LLMには「知識の固定化」や「誤情報の生成」といった課題が存在することも知られるようになりました。それを克服するための技術としてRAG(検索拡張生成)が注目されています。
本記事では、NLPの進化の歴史を振り返りながら、LLMの可能性とその課題、そしてそれを克服するRAGの仕組みと今後の展望について詳しく解説します。
- 目次
1. NLP(自然言語処理)とは?
NLP(Natural Language Processing=自然言語処理)は、コンピュータが人間の言語を理解し、処理する技術の総称です。その歴史はコンピュータが考案されて間もない1950年代に遡ります。初期のNLPはルールベースのアプローチが主流で、文法規則や辞書を用いて文章を解析していました。
しかし、この手法では言語の多様性や例外に対応しきれず、実用性には課題がありました。その後、統計的手法や機械学習が導入され、より高度な言語理解が可能になりました。近年では、ディープラーニングの進化により、ニューラルネットワークを活用したモデルが登場し、翻訳・文章生成・音声認識などの分野で飛躍的な進歩を遂げています。
2. LLM(大規模言語モデル)の登場
2018年頃から、LLM(Large Language Model=大規模言語モデル)が登場し、NLPはさらに進化しました。特に、以下のモデルが革新をもたらしました。
●BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)
双方向の文脈理解を可能にし、検索エンジンや質問応答システムなどで精度向上を実現しました。例えば、「はし(箸)でご飯を食べる」と「はし(橋)を渡る」のように、ひらがなでは区別のつかない単語も前後の文脈から適切に判断できます。ただし、BERTは主に分類・抽出型タスク向けであり、文章生成には適していません。
●GPT(Generative Pre-trained Transformer)
インターネット上の膨大なテキストデータを事前学習し、高品質な文章やプログラミングコードなどを生成する能力を持ちます。特にGPT-3以降では自然な対話や多様なタスクへの対応能力が注目されています。
LLMは膨大なデータを学習し、幅広いトピックに対応する知識を持ち、文脈を考慮した適切な回答を生成できる能力を備えています。そのため、AIによる自動応答、要約、翻訳、コード補完など、多くの応用が実現されています。
3. LLMの課題
LLMは強力な言語生成能力を持つ一方で、いくつかの課題が存在します。
①知識の固定化:最新情報を学習しにくい
LLMは学習時点のデータに基づいて動作するため、新しい情報をリアルタイムで反映することができません。そのため、モデルの知識を更新するには再トレーニング(ファインチューニング)が必要となります。
例えば、「2024年のノーベル賞受賞者は?」と質問しても、学習時点にその情報が含まれていなければ適切な回答を生成できません。ニュースや法律、医療など、常に最新情報が求められる分野では、この知識の固定化が大きな課題となります。
②出典の不明確さ:情報の信頼性が保証されない
LLMは大量のデータを学習しているものの、どの情報を基に回答しているのかを明示できません。そのため、信頼性が求められる医療や法律分野などでLLMの出力をそのまま使用するのはリスクが伴います。
例えば、医療診断において「この病気にはこの治療法が有効です」と出力されても、その根拠となる論文やデータが示されなければ、専門家が情報の正確性を評価することができません。
③ハルシネーション:誤った情報を生成するリスク
LLMは、学習データに基づいて自然な文章を生成できますが、存在しない情報をあたかも本物のように生成してしまうことがあります。これを 「ハルシネーション」 と呼びます。
例えば、歴史上存在しない出来事を事実のように説明したり、架空の論文を根拠として提示したりすることがあります。
こうした課題を克服するために、新たなアプローチとしてRAG(検索拡張生成)が注目されています。
4. LLMの弱点を補完するRAG(検索拡張生成)
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、LLMの弱点を補うために設計された手法です。RAGは、LLMが外部の情報をリアルタイムで検索し、その情報を基に文章を生成する仕組みを持っています。
RAGのメリット
①最新情報を活用
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、外部データソースからリアルタイムで情報を取得し、それを元に文章を生成するため、学習時点以降の新しいデータも活用できます。従来のLLMは、学習済みのデータを元に推論を行うため、最新の出来事や新技術に関する情報を取り扱うのが難しいという課題がありました。しかし、RAGを用いることで、ニュース記事、企業の内部データベース、論文、ウェブサイトなどの最新情報を参照しながら回答を生成できるため、より鮮度の高い情報提供が可能になります。特に、医療・金融・法律などの分野では、情報の鮮度が意思決定に直結するため、大きなメリットとなります。
①出典の明示
RAGは、情報を検索してその内容を元に文章を生成するため、回答の根拠となる出典を明示することが可能です。従来のLLMは、膨大なデータを基に文章を生成するものの、その出典を明確に示すことができず、情報の正確性を判断するのが難しいという問題がありました。RAGでは、検索結果とともに元データのURLや文献名を付加することが可能で、ユーザーが情報の信頼性を確認できるようになります。
③ハルシネーションの抑制
RAGは、外部の情報源をリアルタイムで参照することで、モデルが内部知識だけに依存するのを防ぎます。その結果、事実に基づいた正確な回答を提供できる可能性が高まります。
④モデルの再学習が不要
一般的なLLMは、知識を更新するために再トレーニング(ファインチューニング)が必要となりますが、これには膨大な計算コストと時間がかかります。RAGを活用すれば、外部データを動的に検索して知識を補完できるため、モデル自体を再トレーニングせずに最新情報を反映できます。これにより、運用コストを削減しながら、常に最新の知識を提供できます。
このように、RAGは従来のLLMの課題を補完しながら、より柔軟で信頼性の高い情報提供を可能にする技術として注目されています。
5. RAGの限界と今後の課題
RAGはLLMの課題を解決する有力な技術ですが、完全な解決策とは言えません。以下のような限界もあります。
RAGの限界
①検索対象のデータ品質に依存
RAGの有効性は、外部データソースの品質に大きく依存します。例えば、検索対象がノイズの多いウェブサイトや信頼性の低いデータベースである場合、不正確な情報を基にした回答が生成されるリスクがあります。また、検索エンジンのインデックスが更新されていない場合や、取得データに偏りがあると、最新の正確な情報を反映できない可能性があります。特に、医療や法律などの正確性が求められる分野では、データソースの選定と管理がRAGのパフォーマンスに直結する重要な要素となります。
②検索と生成の処理負荷
RAGは従来のLLMと比較して、検索プロセスが追加されるため、計算コストが増大しやすいという課題があります。従来のLLMは、事前学習済みのデータをもとに即座に応答を生成できますが、RAGではまず関連情報を外部ソースから検索し、それを元に文章を生成するという二重の処理が発生します。
③検索精度の問題
関連情報の取りこぼしや、文脈を正確に理解できないことによる的外れな情報の抽出など、検索精度に関する課題があります。
④要約の質が保証されない
RAGでは、検索した情報をもとに要約を行いますが、その品質は常に一定とは限りません。要約が不適切だと、本来の情報の意味が変わってしまう可能性があります。例えば、要約アルゴリズムが重要な詳細を省略したり、情報を誤って解釈したりすることがあります。特に、複雑な専門用語を含む文章や、文脈依存の高い情報を要約する際に問題が生じることがあります。
RAGはLLMの課題を補う強力な技術ですが、検索対象のデータ品質、計算コスト、検索精度、要約の品質といった面で課題が存在します。これらを克服するためには、データソースの選定、検索システムの最適化、高品質な要約アルゴリズムの開発が不可欠です。企業や研究機関では、検索エンジンの改良やハルシネーション抑制技術の導入を進めることで、RAGの実用性をさらに高めることが期待されています。
6. まとめ
NLPの進化は、LLMの登場によって大きく加速しました。しかし、LLMには「知識の固定化」「誤情報の生成」「出典の不明確さ」などの課題があり、それを補完するRAGが重要な技術として注目されています。
RAGは、リアルタイムで情報を取得し、より信頼性の高い回答を生成することでLLMの課題を克服します。特に、カスタマーサポートや専門分野の情報提供において、その有効性が証明されています。
しかし、RAGも完全な解決策ではなく、検索対象データの品質や検索精度が最終的な生成結果に大きく影響を与えるという課題があります。今後は、検索エンジンの改善やデータの精査、AIモデルの最適化が求められるでしょう。
LLMとRAGを適切に組み合わせることで、より高度で信頼性の高い自然言語処理が実現できます。これからのNLP技術の発展に注目し、最新の技術を柔軟に活用することが、より良いAI活用の鍵となるでしょう。
7. ヒューマンサイエンスのアノテーション、LLM RAGデータ構造化代行サービス
教師データ作成数4,800万件の豊富な実績
ヒューマンサイエンスでは自然言語処理に始まり、医療支援、自動車、IT、製造や建築など多岐にわたる業界のAIモデル開発プロジェクトに参画しています。これまでGAFAMをはじめとする多くの企業様との直接のお取引により、総数4,800万件以上の高品質な教師データをご提供してきました。数名規模のプロジェクトからアノテーター150名体制の長期大型案件まで、業種を問わず様々な教師データ作成やデータラベリング、データの構造化に対応しています。
クラウドソーシングを利用しないリソース管理
ヒューマンサイエンスではクラウドソーシングは利用せず、当社が直接契約した作業担当者でプロジェクトを進行します。各メンバーの実務経験や、これまでの参加プロジェクトでの評価をしっかりと把握した上で、最大限のパフォーマンスを発揮できるチームを編成しています。
教師データ作成のみならず生成系AI LLMデータセット作成・構造化にも対応
データ整理ためのラベリングや識別系AIの教師データ作成のみでなく、生成系AI・LLM RAG構築のためのドキュメントデータの構造化にも対応します。創業当初から主な事業・サービスとしてマニュアル制作を行い、様々なドキュメントの構造を熟知している当社ならではのノウハウを活かした最適なソリューションを提供いたします。
自社内にセキュリティルームを完備
ヒューマンサイエンスでは、新宿オフィス内にISMSの基準をクリアしたセキュリティルームを完備しています。そのため、守秘性の高いデータを扱うプロジェクトであってもセキュリティを担保することが可能です。当社ではどのプロジェクトでも機密性の確保は非常に重要と捉えています。リモートのプロジェクトであっても、ハード面の対策のみならず、作業担当者にはセキュリティ教育を継続して実施するなど、当社の情報セキュリティ管理体制はお客様より高いご評価をいただいております。