
AIの精度を上げるには、高品質な学習データが欠かせません。そのために使われるのが、画像や動画、テキストにラベルを付けるアノテーションツールです。
大規模なプロジェクトでなくとも、開発の初期段階やPoC(概念実証)において一定量の教師データを確保するには、複数人での作業が必要になることも少なくありません。しかし、ツールの導入コストや運用負担を考えると、「無料で使えるものがあれば…」と考える方も多いのではないでしょうか。LabelImgやLabelmeといったOSS(オープンソース)のツールは、アノテーション作業のみ行うため管理機能がなく、複数人での作業を行うには、別途に様々な対応や管理が求められます。
本記事では、小規模チームから利用できる3つの無料のアノテーションツールを、管理機能の視点から比較していきます。チームメンバーの役割分担や進捗管理をスムーズに行いながら、効率的にアノテーションを進められるツールを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
- 目次
1. アノテーションツールの管理機能チェックポイント
小規模であってもチームで作業を行う場合、無料のアノテーションツールを選ぶ際には単に「使えるかどうか」だけでなく、複数人で効率よく作業できるかという視点が大切になります。管理機能の充実度は、管理業務のスムーズさやアノテーションのばらつきの抑制にも大きく影響します。ここでは、ツール選定時に注目すべき3つの管理機能を紹介します。
1. チーム管理
アノテーション作業を複数人で行う場合、作業に必要な人員が同じ環境で作業できなければなりません。またメンバーごとの役割分担も重要です。ツールによっては、ユーザー招待機能や役割設定(管理者・アノテーターなど) が用意されており、効率的なタスク管理が可能です。また、アクセス権限の制御により、誤ったデータ編集を防ぐこともできます。しかし無料アカウントでの利用の場合、チーム管理機能に制限がかかるかどうか、および制限がかかる場合、何の機能においてどの程度制限されているのか、といった確認が必要です。
2. 進捗管理
データのラベリング作業は、タスクが多岐にわたりがちです。タスクごとの割り当てや進捗の可視化ができるツールを使うことで、作業の遅れや抜け漏れを防げます。またレビュー・承認フローがあるツールなら、ラベル付けの品質を一定に保ちやすく、後工程での手戻りも減らせます。
3. 品質管理
高品質なデータを作るためには、アノテーションの品質担保のための管理が欠かせません。そのため作業指示書の記載だけでなく、ツールにもチェッカーからのコメント機能やフィードバック機能が備わっていると、作業者同士で改善点を共有しやすくなります。特に、ミスの修正やガイドラインの徹底に役立つ機能があると、チーム全体の作業精度が向上します。
これらの管理機能を備えたツールを選ぶことで、無料プランであってもスムーズで効率的なアノテーション作業を実現できます。
2. 無料で使えるアノテーションツールの管理機能一覧
今回の記事では、Annofab、CVAT、Superviselyという3つのツールを管理機能に絞って紹介したいと思います。
3つのアノテーションツールの特徴について一覧
ツール名 | チーム管理 | 進捗管理 | 品質管理、作業効率化 | 無料アカウント制約 |
---|---|---|---|---|
Annofab | 組織作成および管理、メンバー招待、権限設定 | タスク作成、割当、進捗管理、ワークフロー設定、統計表示など | ラベル+属性設定、フィードバック・コメント機能、ラベルへの任意なショートカット設定 | 基本無料で利用可能。プライベートストレージ、ファイアウォールは要問い合わせ |
CVAT online | 組織作成および管理、メンバーへの権限設定 | タスク分割、割当、基本的な進捗管理機能 | チェッカーによるコメント機能、シンプルな品質管理機能 | 制限あり(Freeではプロジェクト数やタスク数、ファイル容量に上限設定あり) |
Supervisely | チーム管理ログ、ワークスペース管理、権限設定、ユーザーアクティビティログ | タスク割り当て、進捗統計、マルチステップレビュー、通知機能 | ラベル+タグ設定、フィードバックディスカッション機能、ラベルへの任意なショートカット設定 | メンバー人数、プロジェクト数、ストレージ制限あり。無料版は非商用、研究者、または小規模チームでの使用に限られる。 |
これらの3つのツール(Annofab、CVAT online、Supervisely)は、無料でありながら、チームでのアノテーション作業を効率化するための管理機能を提供しています。各ツールの特徴、強み、そして無料アカウントの制約を理解することで、プロジェクトに最適なツールを見つけることができるでしょう。次のセクションでは、それぞれのツールについて詳しく解説していきます。
3. 各アノテーションツールの管理機能と無料版の制約
Annofab
来栖川電算が開発したAnnofabは、画像、動画、音声、3D点群データなどを扱うことが可能な、アノテーション作業の効率化と品質向上を支援する国産のクラウド型アノテーションツールです。
チーム管理機能:
組織ごと、プロジェクトごとのメンバー招待と役割に応じた権限設定が可能で、プロジェクトごとに作業者の作業範囲を細かく制御できます。これにより、複数の作業者が関与する場面でも、安全かつ効率的に運用できます。
進捗管理機能:
累積作業時間や指摘回数のグラフ化、1枚あたりの作業時間平均といったデータ取得のほか、CSVに対応した詳細なタスク作成機能やチェッカーからの指摘やフィードバックをスムーズに行えるチェック機能、QAチェックのプロセスを数回挟むようなワークフローの柔軟な設定など多くの機能が使えます。
品質管理、作業効率化:
ラベルと属性の柔軟な定義に加え、ショートカットのカスタマイズによって一貫性と作業スピードを両立が可能です。また、コメント機能を活用したフィードバックもスムーズに行えるため、チーム内での修正・確認作業が効率化されます。
操作が多機能にわたるため、習熟には時間が要するものの、GIF動画を交えて作られた日本語チュートリアルやガイドラインが充実しています。
プライベートストレージやファイアウォール対応といったセキュリティ強化機能を利用したい場合は、個別に問い合わせが必要ですが、2,3名〜15名程度の小中規模のプロジェクトにおいては十分な管理機能を有しているツールと言えます。
参考リンク:Annofab
Annofabユーザーマニュアル
CVAT online
MITライセンスにてGitHub上で公開されているCVATのonline版では、Webブラウザ上で無料で手軽にCVATを使うことが出来ます。画像、動画、3D点群データに対応したCVATは、PASCAL VOC、YOLO、COCOなど、多様なアノテーションフォーマットのインポート・エクスポートが可能なツールです。
チーム管理機能:
組織の作成、作業者の招待と権限管理といった必要な機能を有しています。
進捗管理機能:
タスク画面にて進捗状況を示すステータスバー表示や作業者への割当や作業のステータスの変更など、基本的な進捗管理が可能です。
品質管理、作業効率化:
アノテーション結果へのコメントにおいては、以前使われたものを活用できる機能があるなど、品質管理にも基本的な機能が備わっています。
オンライン版の無料アカウントの場合、プロジェクトやタスク数、データ容量など多くの機能に制限(プロジェクト数1、タスク数3、データ容量1GBなど)があるため、これらの制限が気になる場合は有料版、もしくはローカル版での利用も検討が必要でしょう。Dockerなどを使ってローカル環境にインストールする場合はonline版の制限がかからないため、利用目的に応じて使い分けることができます。
参考リンク:CVAT onlineプラン(個人ユーザー)
CVAT Documentation
Supervisely
Superviselyは、アノテーションからAIモデルの学習・評価・デプロイメントまでの全工程を一元管理できるクラウド型プラットフォームです。機能を提供するオープンソースのWebアプリケーションを活用してデータのインポートやエクスポートから、ニューラルネットワークのトレーニング、データ変換の実行など、様々な操作をツール内のアプリを使って行う仕組みです。
チーム管理機能:
ユーザーごとに細かな権限設定が行え、チームやワークスペース単位でプロジェクトを整理・管理できます。アクティビティログやチーム管理ログを活用すれば、各メンバーの操作履歴を時系列で確認できるため、作業ミスの特定や権限調整もスムーズに対応可能です。
進捗管理機能:
アクティビティログやラベリングジョブといった基本機能が利用でき、各メンバーの作業履歴やタスクの進行状況を自動で記録・可視化できます。これにより、誰がどの作業を担当し、どこまで完了しているかを簡単に把握できるため、作業漏れや重複の防止にもつながります。
品質管理、作業効率化:
タグやラベルを細かく定義できるほか、ラベルへのショートカット割り当ても可能で、作業効率を向上させつつ統一性のあるアノテーションを促します。また、チーム内でフィードバックディスカッションを行える機能も備えており、レビューと修正がスムーズに行えます。
あいにく無料アカウントの場合、最大2名のユーザーまでが利用可能であることや、ファイル数は10,000件までに制限されているなど、多くの機能に制限がかかっています。公式ドキュメントは英語のみの提供となっているため、多機能なツールでの把握に加え、英語に不慣れな場合は慣れるまで時間を要するかもしれませんが、スマートなUIと開発工程を一元管理できる多機能なプラットフォームを体験したい場合は、利用する価値が大きいでしょう。
4. まとめ
今回の記事では、チームでのアノテーション作業を効率化するために、管理機能に注目して3つの無料アノテーションツール(Annofab、CVAT online、Supervisely)を紹介しました。これらのツールは、無料で利用できる範囲において独自の特色があるだけでなく、チーム管理、進捗管理、品質管理などの管理機能においても、ユーザーのニーズに合わせた多様な活用方法を提供しています。 ツールの選択にあたっては、プロジェクトの規模、データの種類、チームのスキルセット、そして無料版の制約を総合的に考慮することが重要です。
なお、アノテーションツールの導入のコストを抑えたい場合、アノテーション自体の代行・委託を検討することも有効な手段の一つです。当社ではアノテーションツールのご相談からアノテーションの代行まで幅広く対応しておりますので、ぜひお気軽にお声がけください。
5. ヒューマンサイエンスの教師データ作成、LLM RAGデータ構造化代行サービス
教師データ作成数4,800万件の豊富な実績
ヒューマンサイエンスでは自然言語処理に始まり、医療支援、自動車、IT、製造や建築など多岐にわたる業界のAIモデル開発プロジェクトに参画しています。これまでGAFAMをはじめとする多くの企業様との直接のお取引により、総数4,800万件以上の高品質な教師データをご提供してきました。数名規模のプロジェクトからアノテーター150名体制の長期大型案件まで、業種を問わず様々な教師データ作成やデータラベリング、データの構造化に対応しています。
クラウドソーシングを利用しないリソース管理
ヒューマンサイエンスではクラウドソーシングは利用せず、当社が直接契約した作業担当者でプロジェクトを進行します。各メンバーの実務経験や、これまでの参加プロジェクトでの評価をしっかりと把握した上で、最大限のパフォーマンスを発揮できるチームを編成しています。
教師データ作成のみならず生成系AI LLMデータセット作成・構造化にも対応
データ整理ためのラベリングや識別系AIの教師データ作成のみでなく、生成系AI・LLM RAG構築のためのドキュメントデータの構造化にも対応します。創業当初から主な事業・サービスとしてマニュアル制作を行い、様々なドキュメントの構造を熟知している当社ならではのノウハウを活かした最適なソリューションを提供いたします。
自社内にセキュリティルームを完備
ヒューマンサイエンスでは、新宿オフィス内にISMSの基準をクリアしたセキュリティルームを完備しています。そのため、守秘性の高いデータを扱うプロジェクトであってもセキュリティを担保することが可能です。当社ではどのプロジェクトでも機密性の確保は非常に重要と捉えています。リモートのプロジェクトであっても、ハード面の対策のみならず、作業担当者にはセキュリティ教育を継続して実施するなど、当社の情報セキュリティ管理体制はお客様より高いご評価をいただいております。