
昨今では日本語から英語だけではなく、その他多くの言語への翻訳の需要が高まっており、弊社でもご相談をいただいています。日本語から英語(または英語から日本語)だけではない、多くの言語への翻訳、つまり「多言語翻訳」を検討している方も多くいらっしゃいます。その一方で、多言語翻訳に対するイメージは曖昧な部分がある方もいらっしゃるかと思います。そこで今回は、多言語翻訳について詳しく解説していきます。
多言語への翻訳が必要だけれど、日本語↔英語の翻訳とどう違うのか分からないという方も、このブログからイメージを掴んでいただければと思います。
- 目次
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- 1. 多言語翻訳とは?基本の考え方と活用分野
- 1-2. 多言語が必要なMDR
- 2. 多言語翻訳の手法とそのメリット・デメリット
- 2-1. 人手翻訳と機械翻訳の違いとは?〈品質面の比較〉
- 2-2. 人手翻訳と機械翻訳の違いとは?〈期間・コストの比較〉
- 2-3. ポストエディットという選択肢
- 3. 多言語翻訳におけるLLM(生成AI)校正ツールの活用
- 4. 多言語翻訳の依頼先を選ぶポイント
- 4-1. 実績と専門性
- 4-2. 翻訳サービスにおけるISO:ISO17100、ISO18587
- 4-3. プロジェクトの管理体制
- 5. 多言語翻訳の依頼方法
- 6. 多言語翻訳の事例
- 6-1. 事例紹介
- 6-2. 多言語翻訳の導入効果まとめ
- 7. まとめ
1. 多言語翻訳とは?基本の考え方と活用分野
多言語翻訳とは1つの言語から複数の言語へテキストや音声を翻訳することです。例えば、日本語から英語、中国語、韓国語の3つの言語に翻訳する場合、これは多言語翻訳になります。
社会のグローバル化が進む中で、多言語翻訳は国際ビジネス、観光、教育、医療など、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。弊社でも多くご相談をいただいておりますが、昨今では特に「MDR」の領域において、多言語翻訳のご依頼を頂くことが増えているのを実感します。
さて、「MDR」についてご存じでしょうか。普段携わっている分野によっては、「よく知っている」という方から「聞いたことはある」「まったく知らない」という方もいらっしゃるでしょう。次の段落では、その「MDR」について簡単にご説明します。
1-2. 多言語が必要なMDR
MDRとはMedical Device Regulation(医療機器規則)の略称です。この規則は、EU市場で流通する医療機器の安全性と有効性を確保するために欧州連合(EU)によって制定されたものです。MDRは以前の医療機器指令(MDD)に代わるもので、2020年5月26日から適用されています。この新しいMDR規則の中では、次の点が規定されています。
・医療機器の安全性と有効性を確保するために、技術文書や使用説明書、ラベルなどの文書を各EU加盟国の公用語に翻訳すること
・医療機器の透明性を高めるため、製品の安全性と臨床性能に関する情報を多言語で提供すること
つまり、MDRに準拠するためには「すべての関連文書を正確に各言語へ翻訳する必要がある」ということになります。
多言語翻訳のご依頼やご相談が増えている、つまり多言語翻訳の必要性が高まっているのは、このようなMDR規則の背景があることが理由の一つとなっているのです。
2. 多言語翻訳の手法とそのメリット・デメリット
それでは、ここからは実際の多言語翻訳に関する点をご紹介していきます。
まず翻訳の手法には、大きく分けて翻訳者が1から翻訳する「人手翻訳」と、機械による翻訳を活用した「機械翻訳」の2つのパターンがあります。
弊社ではお客様からのご要望に応じて適宜これらを使い分けていますが、多言語翻訳においても同様です。
ここでは、「人手翻訳」と「機械翻訳」のそれぞれの違いについて、多言語翻訳ならではの視点も交えて簡単にご説明します。
2-1. 人手翻訳と機械翻訳の違いとは?〈品質面の比較〉
翻訳品質
<人手翻訳>
・前後の文脈を考慮した翻訳が可能
・より分かりやすく意訳や補足を適宜加えることが可能
<機械翻訳>
・手を加えなくても問題ない文章を出力する場合も多い
・文脈を正確に読み取った翻訳は困難
・原文以上の情報を追加したり意訳したりすることはできない
AIの発展により大きく進歩した機械翻訳ですが、やはりまだ文脈を正確に判断することは難しいのが現状です。文脈に依存しない文章であれば比較的正確に出力されることが多くありますが、文脈に依存する内容が含まれる場合には意味が通じない文章や致命的な誤訳を出力してしまう場合もあります。
一方翻訳者は前後の文脈を把握・理解したうえで翻訳を行います。そのため、適切に意訳したり、場合によっては補足を加えたりといった意訳も可能です。
2-2. 人手翻訳と機械翻訳の違いとは?〈期間・コストの比較〉
期間・コスト
<人手翻訳>
・時間とコストが機械翻訳よりも多くかかる
・翻訳者の人数が限られる
<機械翻訳>
・出力だけであれば非常に短時間で完了する
・エンジンさえ対応していれば、マイナーな言語であってもすぐに出力可能
プロジェクトによって異なりますが、日英翻訳では1人の翻訳者が1日に翻訳できる文字数は約4000文字程度、多言語翻訳は英語を原文とした場合約2000単語程度を基準として考えます。一方、機械翻訳の場合、出力だけであればわずか数分で完了します。
また、多言語ならではの点として、日本ではあまり馴染みのない言語の場合対応できる翻訳者が少ないことがあります。翻訳者を手配する段階で時間がかかってしまったり、コストや期間の面でも融通を利かせられない場合が出てしまうのです。機械翻訳の場合、エンジンさえ対応していれば、出力が可能です。
先ほどご紹介したMDRに伴う多言語翻訳はリアルタイムで迅速な対応が必要になることが多いため、短期間での対応は非常に重要なポイントです。
2-3. ポストエディットという選択肢
さて、人手翻訳は品質の面で有利であり、一方機械翻訳は期間・コストの面で有利であることが分かってきました。もちろん、どちらも大切なポイントですので、どちらかを完全に切り捨てることは難しいのが現実です。
そこで、品質の面では人手翻訳に近付けつつ、機械翻訳の期間・コストのメリットも活用する方法として、弊社では「機械翻訳」の次に「ポストエディット」を行うことが多くあります。
これは最初に機械翻訳で全体を翻訳し、それを翻訳者(ポストエディター)が修正するというフローです。こうすることで、人手翻訳に比べ短期間で機械翻訳から品質がブラッシュアップされた訳文を用意することができるのです。
多くの時間はかけられないが誤訳やあまりにも不自然な訳文はNGという、まさにMDRに伴う翻訳においては重要な手段の一つとなっています。
3. 多言語翻訳におけるLLM(生成AI)校正ツールの活用
品質と期間の短縮の両立が必要になるのは、MDRに限った話ではありませんね。
弊社では様々なツールや最新の技術で、この両立を実現する方法を検証しています。
ここでは、その一つをご紹介します。
弊社では、LLM(Large Language Model)を組み込んだ校正ツールを開発しています。LLMは大量のテキストデータをもとに学習した生成AIです。このツールに訳文を読み込ませることで、自動でエラーを検出させ、素早く正確に訳文をご提供することを目標としています。
この取り組みの一貫として、弊社では多言語の翻訳結果を用いての検証も行っていますが現状はまだ実用化するには難しい段階にあるのが正直なところです。しかし、将来的にはアップデートを重ね、運用方法についても検討を行うことで、活用できる可能性を含んでいると考えています。
それでは、弊社で行った検証事例を簡単にご紹介させていただきます。
<検証方法>
機械翻訳直後の訳文に対して、フランス語・イタリア語・ドイツ語・スペイン語・ポルトガル語・オランダ語・ロシア語の計7言語、下記の2パターンを用意する。
・人手による校正(通常の校正)
・LLM校正ツールによる校正結果
上記二つを比較し、「誤訳・訳漏れ」「文法エラー」「不自然な表現」「不適切な表現」「形式エラー」の5つのチェック観点において検証を行った。
<検証結果>
言語によって差異はありますが、概ね下記の点が共通していました。
1) 検出率と正確性が高いもの
「誤訳・訳漏れ」・「文法エラー」
修正不要な指摘も含まれてはいるものの、実際に問題のあるエラー(修正が必要なもの)の数は、校正者が指摘したエラーの数と大きな差はなく、この観点におけるエラーの検出率は高いことが分かりました。
2) 検出率と正確性が低いもの
「不自然な表現」「不適切な表現」「形式エラー」
「不自然な表現」「不適切な表現」は修正不要な指摘が多く、一方で「形式エラー」は校正者が指摘した数より少ない結果となり、エラーの検出率・正確性ともに低いことがわかりました。
LLM(生成AI)は日々進歩しており、精度は今後さらに上がることが予測されています。現状はまだ実際に活用することが難しいとしても、将来的には多言語翻訳においても実用できる可能性は十分にあると考えています。
4. 多言語翻訳の依頼先を選ぶポイント
さて、ここまで多言語翻訳のフローと弊社での工夫や取り組みについて説明してきましたが、ここでは多言語翻訳の依頼先、つまり翻訳者を考える際に重要なことをご説明します。
4-1. 実績と専門性
翻訳の依頼先を考える際に重要なことは、まずは実績と専門性です。
言語の勉強をした人なら誰でも翻訳ができるというわけではありません。正確で自然な翻訳を行うには経験が必要です。
また、特定の分野(例えば、医療、法律、技術など)の翻訳では専門用語が多く使われます。何十年もその言語で翻訳経験があっても、専門知識が必要になる分野に詳しくなければ、正確に翻訳することはできません。
これは多言語翻訳に限ったことではなく、すべての翻訳について同じことが言えますが、まずは対象言語や分野において豊富な経験のある会社に的を絞って問い合わせしてみることをお勧めします。
4-2. 翻訳サービスにおけるISO:ISO17100、ISO18587
ISOとはInternational Organization for Standardization(国際標準化機構)という非政府機関の名称で、ISOは様々な分野において世界標準規格を提供しています。ISO認証を取得しているということは、その企業がISOに定められた国際規格をクリアしている事の証明になります。
ISO17100
翻訳サービスにおいてもISO17100という規格があります。ISO17100では翻訳開始から納品までの翻訳プロセスにおける様々な要件が定められており、翻訳者や校正者の資格や力量についても規定を定めています。
弊社は多言語も含めてこのISO17100を取得しております。
ISO18587
ISO18587は、2017年に発行された国際基準であり、機械翻訳を活用したポストエディットに関する規格です。国内の翻訳会社では取得している企業はわずかです。
弊社ではISO17100とISO18587の両方とも取得しています。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
>>国際規格のISO18587とは?認定取得に向けた必要な準備とポイント | ブログ | 株式会社ヒューマンサイエンス
4-3. プロジェクトの管理体制
翻訳プロジェクトには複数の人が関わります。複数名で適切に翻訳プロジェクトを進行するために、弊社ではプロジェクトごとにコントロールプランを作成し、それに沿って進行・管理を行っています。
このコントロールプランにはISO17100で定められた規定が反映されており、規格に沿った進行/管理を行っております。
5. 多言語翻訳の依頼方法
それでは次に、実際に多言語翻訳が必要になった際にどのように依頼すればいいのかという視点でご紹介します。
多言語翻訳を依頼する時のポイントや準備すべきことを以下にまとめました。
言語の仕向け
例えば、ポルトガル語の場合、ポルトガル(欧州)のポルトガル語とブラジルのポルトガル語の2種類があります。スペイン語もスペイン仕向けとメキシコ仕向けで言語的にも異なるものです。このように、仕向け国まで確認し依頼先に明確に伝えましょう。
原文
多言語翻訳の場合、英語から多言語へ翻訳する場合が一般的であり、もし原文が日本語しかない場合には、まず英語に翻訳をしてからその英語から多言語翻訳をする必要が出る可能性が高いです。
これは、翻訳者の数の違いによるものです。例えば、日本語からスペイン語に翻訳できる翻訳者より、英語からスペイン語に翻訳できる翻訳者の方が遥かに多く、翻訳者の確保が容易になります。また、多数の翻訳者の中から適切な翻訳者を選定するということは、分野的にもマッチした翻訳者に依頼できる可能性が高まります。これらの要因から、多くの多言語翻訳は英語を原文として行われています。
ただ、すべての多言語翻訳が英語からでないと翻訳が難しいというわけではありませんので、まずは翻訳会社へお問い合わせいただくのがベストです。
参照資料
翻訳の際に必要な参照資料として、スタイルガイド、用語集、TM(Translation Memory/翻訳メモリ)が挙げられます。
スタイルガイドは言語ごとのスタイル、用語集は統一すべき用語の対訳、TMは過去の翻訳資産です。こういった資料があれば訳文の統一や翻訳費用を抑えることも可能になるなど、様々なメリットがあります。参照資料がある場合には依頼先に提示しましょう。
マニュアルなどの改定に伴う翻訳の場合は、旧版の多言語版マニュアルも参照資料になりますので、旧版のマニュアルも提示することをお勧めします。
6. 多言語翻訳の事例
多言語翻訳に限ったことではありませんが、人手翻訳と機械翻訳では費用と納期に差があり、それぞれのメリット・デメリットは前述の通りです。
最近では機械翻訳のお問い合わせを数多く頂いておりますので、ここでは多言語翻訳で機械翻訳を導入したクライアント様の例をご紹介します。機械翻訳を導入し、コスト削減と納期短縮を実現することができました。
6-1. 事例紹介
弊社で行っている多言語翻訳の事例をご紹介します。
・医療機器メーカー様
対象:医療機器取扱説明書
言語:英語→5言語(フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ブラジルポルトガル語)
分量:少量
頻度:ひと月に数回
<背景>
こちらのクライアント様は翻訳コストや期間の削減のため、機械翻訳の導入を検討されていました。弊社では機械翻訳の導入をサポートさせて頂き、現在は機械翻訳を導入した多言語翻訳を行っております。
機械翻訳を導入する準備として、実際に使用する翻訳対象のデータを使用して品質評価を実施し、この翻訳対象データに最適な機械翻訳エンジンの選定を行いました。「機械翻訳は導入しても、翻訳品質は下げたくない」というクライアント様のご要望に合わせて、「機械翻訳+ポストエディット」という機械翻訳の標準プロセスに加えて、翻訳者によるレビュー工程を追加することを提案させていただきました。その結果、機械翻訳でも従来の人手翻訳と遜色ない品質を実現することができました。
クライアント様からもすべての言語において「品質に問題なし」との評価を頂いております。機械翻訳導入の目的であったコスト削減と期間短縮の課題においても、20%コストダウン、納期短縮が実現し、課題をクリアすることができました。
6-2. 多言語翻訳の導入効果まとめ
– コスト:約20%削減
– 納期:従来比で短縮
– 品質:人手翻訳と同等評価
– 顧客評価:「品質に問題なし」
7. まとめ
ヒューマンサイエンスの翻訳サービスは、大量の翻訳はもちろん、自動翻訳を活用したコストカットや、現地ならではの法律や規格を反映した翻訳もご対応しております。
品質が不安、納期が不安、コストが不安、そのような方もまずはお気軽にご相談ください。