AIを活用したマニュアル作成ツールが注目される背景
なぜ今、これほどまでにマニュアル作成のAI化が話題になっているのでしょうか。まずは背景を整理してみましょう。
1-1.マニュアル作成は、負荷がかかる上に属人化しやすいから
AI導入が話題にあがる大きな理由は、マニュアル作成は、人手でやるには大変だからでしょう。社内向けのマニュアルを作るために、ただでさえ日々の業務で忙しい担当者が、業務手順を整理し、文章を考え、システム画面のスクリーンショットを撮り、レイアウトを整えて……。1冊のマニュアルを作るだけでも、それなりの工数とまとまった時間を要します。
また、マニュアル作成は、業務に詳しくて仕事ができる特定の人に任せきりになりがちです。「〇〇さんが忙しいから、マニュアルの更新が止まっている」という状況は、皆さんも一度は経験があるのではないでしょうか。
上記の背景から「AIなら素早くマニュアルが作れるし、誰が作っても同じようなものができるのでは」と考えるのは、とても自然な発想だと思います。
1-2.マニュアル作成には、スピードが求められるから
クラウドツールの導入や業務プロセスの変更が頻繁に行われる現代では、マニュアルもまた、常にアップデートされる動的なものである必要があります。一冊のマニュアルを更新するためにじっくり時間をかけたり、「誰か時間のある人がやってくれる」と個人の善意に頼っていたりすると、なかなかこのスピード感に対応できません。
「いつでも、誰でも、最新の正しい手順がわかる」状態の重要性が高まる今、素早く情報を処理できるAIは、有力な解決策の一つとみなされています。
1-3.AIの進化が、マニュアル作成の可能性を広げているから
大規模言語モデル(LLM)の登場により、テキストの要約や構成案の作成、翻訳、さらには画像や動画からの手順解説といった作業すら、驚くべきスピードと精度でできるようになりました。
「AIを使えば、これまで数週間かかっていたマニュアル作成が数分で終わるのではないか」という技術への期待が、ツールの導入を推し進めているようです。実際、適切にAIを活用すれば、作成工数を削減できる可能性があります。
では、本当にAIは何でも上手にこなしてくれるのかというと、そういうわけでもありません。できないこともあります。AIの恩恵を受けるためには、AIにできること・難しいことを正しく理解しておくことが重要です。次の章で、その点を整理しておきたいと思います。
AIでマニュアルはどこまで自動作成できるのか
確かにAIは強力な武器ですが、万能ではありません。AIにも得意なことと苦手なことがあります。その点をしっかり理解しておかないと、マニュアル作成に使った場合も「なんだか思ったものと違う」なんてことになってしまいます。
2-1.AIでできること:文章生成・要約・構成補助
AIが得意とするのは、バラバラな情報の整理整頓です。
・目次構成案(アウトライン)の作成:業務のタイトルや断片的なキーワードを入力するだけで、マニュアルの目次構成案を生成できます。特に、「経費精算のしかた」など、どの企業でも実施されているような業務であれば、精度の高い目次構成案を作ってくれます。
・文章のリライトと要約:現場の担当者が書いた粗いメモや箇条書きベースの情報から、他の人にも読みやすい丁寧な説明文を作成したり、冗長な説明を簡潔にまとめたりすることができます。
・翻訳:AIを使って、一瞬で多言語に翻訳できます。
・画像・動画からの手順抽出:最新のマルチモーダルAIを使えば、操作の様子を撮った録画から自動でステップを切り出し、操作説明をテキスト化することも可能です
2-2.AIでは難しいこと:業務理解・暗黙知の整理・正確性の担保
一方で、AIは指示されていないことを察したり、100%正しいものを作ったりすることはできません。
・業務の背景と文脈の理解:「そもそもなぜこの業務が必要なのか」といった業務の目的や企業文化に根ざした判断基準、例外事象への対応方針などは、人間が何の情報も与えなければAIは理解できません。
・暗黙知の整理:ベテラン社員だけが把握しているちょっとしたコツや「このあとトラブルになりそう」といった予兆も、人間が言葉にしてAIに伝えない限り、AIがアウトプットすることはできません。
・事実の出力:AIは時として、事実とは異なる内容を、極めて自然な文章で出力します(ハルシネーション)。あまりにもそれっぽいので信用してしまいそうになりますが、AIが生成した内容の最終的なファクトチェックは、人間が責任を持って行う必要があります。
マニュアル作成にAIを用いる場合も、上記のようなAIの得意・不得意を正しく理解した上で、人間とAIとの協働を考えていく必要があります。
次の章では、具体的にどのような形でマニュアル作成にAIを活用できるか、ツールのタイプを説明します。
AIを活用してマニュアルを自動作成できるツール
AIを使ってマニュアルを作成するツールには、大きく分けて3つのタイプがあります。
自社の課題ややりたいことに合わせて最適なものを選ぶことが重要です。
3-1.汎用生成AI(ChatGPT, Claude, Gemini等)
汎用的なLLM(大規模言語モデル)を直接、あるいはAPI経由で活用するタイプです。
メリット:非常に自由度が高く、プロンプト次第で柔軟なアウトプットが可能です。多言語対応も可能です。
デメリット:毎回適切なプロンプトを入力する必要があります。また、同じプロンプトを入力しても、常に同じ出力結果になるとは限りません。セキュリティ面での配慮も必要です。
活用シーン:既にマニュアルの骨子があり、主に「文章のブラッシュアップ」や「翻訳」を目的とする場合に向いています。
このような企業におすすめ:
•マニュアルの品質は良いが、表現をさらに洗練させたい
•既存の日本語マニュアルを迅速に多言語化したい
•まずは手軽にAIによる文章生成の効果を試したい
3-2.マニュアル特化型作成ツール(専用SaaS)
マニュアル作成・共有に特化したUI/UXを持つ、いわゆるマニュアル作成専用ツールです。
メリット:「注意事項」や「ポイント」などのテンプレートやバージョン管理機能、画像や動画の編集機能など、マニュアル作成に必要な機能がパッケージ化されたツールです。最近では、AIによる執筆補助や校正支援の機能をもつツールもあります。初心者でも、ルールに沿った、品質の高いマニュアルを作成できます。
デメリット:たいていの場合、初期費用に加え月額費用がかかるため、利用規模が大きいとコストが嵩みます。
このような企業におすすめ:
•マニュアル作成が属人化しており、特定の担当者に負担が集中している
•部門間でマニュアルの形式や品質にバラつきがあり、統一したい
•大量の操作手順書や業務マニュアルを効率的に作成・更新したい
3-3.ナレッジ共有プラットフォーム型ツール(Wiki, AI検索連携型)
社内のWikiやドキュメントを一つの場所で管理でき、AIによる検索に強みを持つタイプです。
メリット:マニュアル以外のナレッジ(定例会の議事録や業界のニュース記事など)も同じプラットフォームで管理できるため、汎用性が高く、現場のさまざまな疑問を解決できます。RAG(検索拡張生成)の仕組みを取り入れ、作成したドキュメント群からAIが回答を生成するチャットボットを備えたものもあり、ナレッジを「探す」時間の短縮が期待できます。
デメリット:情報の整理や構造化ができておらず雑多になってしまうと、必要な情報を見つけづらく、見つけてもその情報の目的が分からず使えないというケースに陥ってしまいます。また、その場合、AIによる検索精度も上がりにくくなります。
このような企業におすすめ:
•マニュアルや社内情報を探し出すのに時間がかかり、業務効率が低下している
•FAQシステムや問い合わせ対応を効率化したい
•部門横断的な知識共有を促進し、社内全体のナレッジを有効活用したい
上記のように、マニュアル作成にAIを取り入れる上での選択肢は豊富にあります。
一方で、AIを導入したからといって、必ずしもマニュアル作成がうまくいくとは限りません。確かに、誰がツールを使ったかに関わらず常にAIがわかりやすい文章を書いてくれるのであれば、マニュアルの品質は上がりそうに思えます。しかし、マニュアルに求める品質基準、すなわち執筆ルールや用語の定義などが曖昧だったりすると、AIツールは「それっぽいけど、書き方も表現もバラバラで使い勝手の悪いマニュアル」を量産してしまいます。
それでは、AIツールの導入効果を最大化するためには、何が重要なのでしょうか。
次の章で、本当に使えるマニュアルを作るために必要な、二つの要素を解説します。
AIツールの導入メリットを最大化する、二つの重要な要素
前の章でご紹介した通り、マニュアル作成を支援するAIツールは多種多様です。しかし、どれほど優れたAIを導入しても、「期待していたほどの効果が出ない」「結局人が手直しするので、トータルの工数が変わらない」という壁にぶつかる企業は少なくありません。
AIはあくまで、入力された情報と指示に従って動く、「人間には出せないスピードで処理ができる装置」です。そのスピードを成果に繋げるためには、ツールを導入する前に、マニュアルの品質基準と作成プロセスを設計し、マニュアル作成の土台を固めておく必要があります。
4-1.要素①マニュアル品質基準の設計
AIに「わかりやすい文章にして」「長く使えるマニュアルを作って」と指示を出しても、何をもって「わかりやすい」とするか、どのような状態であれば「いいマニュアル」なのかは、企業や業務内容によって異なります。組織内でこのような品質基準が共有されていないと、AIが出力した結果の良し悪しを判断することは難しくなります。また、基準がないことで、人によってAIの出力物をどこまで調整するかがばらつき、「AIを使っているのに属人化から抜け出せない」なんてことも……。
そのような事態に陥らないためには、AIツールを導入する前に、以下のような事柄を品質基準として設計し、ルールに落とし込む取り組みが必要です。
・です・ます調の統一などの表記ルール
・マニュアルどのような要素を含めるか(手順、注意、補足など)
・各要素はどの書式で表すか
品質基準があることで、AIの出力結果を客観的に評価でき、「AIが出力したマニュアルをなんとなく調整していたら、多大な時間がかかってしまった」といったことも避けることができます。また、そのような品質基準をあらかじめAIにセットすることで、より効率的にマニュアルを作成することもできるようになります。
4-2. 要素②マニュアル作成プロセスの設計
AIツールを導入したものの、「いつ、誰が、どのようにそのツールを使うのか」が決まっていないと、実際に現場で運用させることは難しくなります。結果として、「ふたを開けてみたら、ツールが使われていなかった」という事態を招いてしまうかもしれません。AIと人との協働を前提とした、新しいプロセスを定義する必要があります。
例えば以下のようなことを検討して、ワークフローを描いてみましょう。
・誰が情報を集めるか
・いつ、誰がAIツールを操作するか
・いつ、誰が、どんな基準で、AIのアウトプットを確認して調整するか
・何をトリガーとして、誰が作成したマニュアルの更新を行うか
上記は、AIを使わずにマニュアル作成をする場合にも重要です。人力/AI問わず、マニュアルの運用に課題を感じている方は、ぜひこれらのことができているかを確認してみてください。
もし、「品質基準を作る時間がない」「自社に最適な作成プロセスがわからない」という場合は、マニュアル作成の専門家に相談するのも一つの手です。土台となるルール設計や、AIが学習・参照するためのお手本となる「高品質なマニュアル」の作成をプロに任せることで、その後のAI運用をスムーズに軌道に乗せることができます。
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ヒューマンサイエンスも、品質基準やプロセスの設計をお手伝いすることが可能です。どの企業にもあてはまる一般論をお伝えするのではなく、お客様が作成したマニュアルを拝見し、マニュアルの使い方や運用状況などをヒアリングさせていただいた上で、お客様に最適な品質基準やプロセス設計をご提案いたします。 また、複数のマニュアルを標準化(品質基準に沿ってリライト)するAIエージェントの開発支援も行っています。品質基準の設計からAIエージェントの開発、PoCでの精度検証までサポートいたします。 |
AIツールの導入メリットを最大化する、二つの重要な要素
ヒューマンサイエンスは、日本語版のマニュアル作成から英語翻訳まで、ワンストップでご支援いたします。1985年からの長きにわたり数々のマニュアルを手がけてきた実績があります。以下のようなニーズがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
・既存の日本語マニュアルや英語マニュアルを分かりやすく改善したい
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特長①:大企業・グローバル企業を中心とした豊富なマニュアル制作実績
ヒューマンサイエンスは、製造業やIT業界を中心に、多岐にわたる分野でマニュアル制作実績を積み重ねてきました。これまでに「ドコモ・テクノロジ株式会社」「ヤフー株式会社」「ヤマハ株式会社」など、名だたる企業をクライアントとしてきました。
マニュアル制作事例紹介| ヒューマンサイエンス
特長②:経験豊富なコンサルタントによる調査・分析からアウトプットまで
業務マニュアル作成に携わるのは、ヒューマンサイエンスが誇る経験豊富なコンサルタントになります。熟練のコンサルタントが、豊富な経験と提供された資料から、より分かりやすく効果的なマニュアルを提案します。また、情報が整理されていない段階からのマニュアル作成も可能です。担当のコンサルタントがヒアリングを行い、最適なマニュアルを作成いたします。
マニュアル評価・分析・改善提案サービス| ヒューマンサイエンス
特長③:マニュアル化だけでなく、定着支援も重視
ヒューマンサイエンスは、マニュアル作成にとどまらず、”定着化”という重要な段階にも注力しております。マニュアル作成後も、定期的な更新やマニュアル作成セミナーを通じて、マニュアルの定着を支援してまいります。多岐にわたる施策により、現場でのマニュアルの有効活用をサポートいたします。
マニュアル作成セミナー| ヒューマンサイエンス
最後までお読みいただき、ありがとうございました。このコラムがAI活用のヒントになれば、うれしく思います。
